白金化合物(読み)ハッキンカゴウブツ

化学辞典 第2版 「白金化合物」の解説

白金化合物
ハッキンカゴウブツ
platinum compound

白金(Ⅱ)および(Ⅳ)の化合物が主であるが,(0)~(Ⅵ)のものも知られている.【】白金(Ⅱ)化合物.PtCl2(灰緑色),PtBr2(褐色),PtI2(黒色)は水に不溶で,単純な Pt2+ の塩ではない.PtCl2塩酸に,PtBr2は臭化水素酸に可溶.PtS(黒色),Pt(CN)2(黄褐色)も水に不溶.ハロゲン化物イオン,シアン化物イオン,アンモニア,有機配位子と多くの平面正方形,八面体錯体をつくるほか,複核白金(Ⅱ)錯体をつくる.白金(Ⅱ)錯体中で,もっとも有名なのはcis-ジアンミンジクロロ白金(Ⅱ)cis-[PtCl2(NH3)2][CAS 15663-27-1]で,商品名Cisplatinで知られる抗がん剤である.その効果は,細胞内での加水分解生成物 [PtCl(H2O)(NH3)2] がDNA塩基のN原子に配位してがん細胞の増殖を阻害するためと考えられている.四配位の構造は1893年にA. Werner(ウェルナー)によって推定された.Trans-異性体の抗がん作用は弱い.【】白金(Ⅳ)化合物.PtCl4(赤褐色),PtBr4(暗褐色),PtI4(黒褐色)は金属と各ハロゲン単体を加熱すると得られる.PtCl4はヘキサクロロ白金(Ⅳ)酸H2[Pt Cl6]の熱分解でも生成する.PtX4(X = ハロゲン)を加熱するとPtX2になる.PtCl4は水に易溶であるが,それ以外は難~不溶.黒色の粉末状のPtO2・H2Oは有機合成で水素化に使われる触媒(Adams' catalyst)で,H2[Pt Cl6]または(NH4)2PtCl6を溶融硝酸ナトリウムに溶かし,水に注ぐと得られる.白金(Ⅳ)錯体は八面体構造で反磁性・低スピンのものが多い.とくにN原子を配位原子とする配位子と多くの安定な錯塩,六配位のキレート化合物をつくる.n = 2~6の [Pt(NH3)nCl6-n](n-2)+ や,トリス(エチレンジアミン)白金(Ⅳ)イオン [Pt(C2H8N2)3]4+ などが知られている.【】このほか,Ptと Ptが共存する見掛け上の Pt化合物,PtCl3など,[Pt0 (CO)4]のような0価のカルボニル化合物があり,また六価の化合物も存在する.PtF6は強力な酸化剤で,酸素やキセノンを酸化してO2PtF6,Xe(PtF6)2などをつくる.後者は1962年にはじめて合成されたキセノン化合物である.
「白金及びその水溶性塩」は労働安全衛生法の「名称等を通知すべき危険物及び有害物」,「プラチナ及びその化合物」は大気汚染防止法の「有害大気汚染物質」である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「白金化合物」の意味・わかりやすい解説

白金化合物
はっきんかごうぶつ
platinum compound

白金のつくる化合物。白金の酸化数は通常 +2 および +4 であるが,まれに +1 ,+3 ,+6 を示すことがある。酸化物としては PtO および PtO2 のほかに Pt2O3 ,PtO3 のあることが知られており,塩化物には PtCl2 ,PtCl4 のほか PtCl ,PtCl3 もある。コバルトと並び,古くより多種多様の錯体をつくることが知られており,Pt (II) の平面型四配位,Pt (IV) の正八面体型六配位が普通である。錯体として重要なのは,白金を王水に溶かし濃縮して得られるヘキサクロロ白金酸六水和物 H2[PtCl6]・6H2O で,これより各種白金 (IV) 化合物が合成される。高酸化数化合物には PtF6 (暗赤色結晶) ,XePtF6 (赤色結晶) や PtO3 ,PtSe3 がある。

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