工場や建物解体現場などから大気中に排出されるばい煙や粉じんなどの濃度や量を規制する法律。周辺住民の健康や環境保全を目的とする。吸入すると肺がんなどの原因となる鉱物のアスベスト(石綿)を特定粉じんと定めて排出を規制。昨年6月成立の改正法で、石綿を排出する工事の発注者に都道府県知事への届け出を義務付けた。無届けや虚偽の報告をした場合は3月以下の懲役か30万円以下の罰金を科す。改正法は今年6月までに施行される。
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大気汚染を防止するために必要な規制を行うための枠組みを定める法律である。より具体的な規制対象や規制手法は,同法をうけた命令,行政規則(〈大気汚染防止法施行令〉〈大気汚染防止法施行規則〉,および関連の告示等)に規定されている。大気汚染防止法としては1968年に公布。1962年制定の〈ばい煙の排出の規制等に関する法律〉は同法の前身にあたる。この1962年法は,1960年代以降,四日市喘息など大気汚染問題が各地で深刻化したことに対処すべく制定されたものであったが,固定発生源への規制のみが念頭におかれていたために,自動車の排出ガスを規制対象に含まず,規制が指定地域に限られるなど不備な点が多かった。そこで,67年に制定された公害対策基本法をうけて,自動車排出ガスを規制対象に含み,規制排出基準を強化した大気汚染防止法が68年6月,新たに制定されたのである。しかし同法制定後も,東京都新宿区牛込柳町の鉛公害事件や,全国的な光化学スモッグの多発など,未規制物質による大気汚染公害が依然として発生し,また大気以外の公害問題も含めて国の公害規制のあり方を問う反公害の世論が全国的に高まったこともあって,70年12月の第64臨時国会(いわゆる〈公害国会〉)では,大気汚染防止法を含む既存の公害関係諸法は大幅な改正をうけることとなった。大気汚染防止法に関しては,経済との調和条項が削除されたほか,それまでの指定地域規制が全国規制に改められ,さらに,新たに粉塵規制を含め規制対象が拡大され,ばい塵と有害物質に関する条例による上のせ規制が認められ,改善命令の手続を経ずに違反者への罰則適用が可能になる(直罰方式)などの大きな改善がみられたのである。その後同法は,72年の事業者の無過失責任制の導入,74年の総量規制制度の導入,96年の有機塩素化合物を中心とする有害大気汚染物質対策の導入(97年にはさらにダイオキシンを指定物質に追加)と,3度の大きな改正を経て今日に至っている。
現在の大気汚染防止法では,規制の対象として,(1)物の燃焼に伴うばい煙(2章),(2)物の破砕等に伴う粉塵(2章の2),継続的な摂取が人の健康を損なうおそれのある有害大気汚染物質(2章の3),(3)自動車の排出ガス(3章)が挙げられている。(1)ばい煙には硫黄酸化物,ばい塵(いわゆる一般のスス類),およびカドミウム,鉛化合物,窒素酸化物等の有害物質等が含まれるが,その規制基準として排出基準が定められることとなっている(3条1項)。ばい煙発生施設の設置者は届出が義務づけられており,排出基準違反に対しては罰則が適用され(6章),改善命令等が出される(14条)。ただし,具体的な排出基準の数値は総理府令に委任されている(3条)。これと併せて,排出施設が密集しているような特定の地域には,地域全体の排出許容量から逆算して各施設ごとの排出基準を定める総量規制が,硫黄酸化物,窒素酸化物を対象に施行されている(5条の2)。(2)粉塵に関する規制は,一般粉塵と,人の健康にかかわる被害を生ずるおそれがある特定粉塵に区分される。一般粉塵には,制令で定められる粉塵発生施設の設置者に対し届出義務,〈構造並びに使用及び管理に関する基準〉の遵守義務(18条)が課されるが,特定粉塵には,さらに処理・飛散防止方法の届出等を義務づけ(18条の6),排出等作業にかかわる規制基準(作業基準)が適用される(18条の14)ほか,特定粉塵排出作業を伴う建設工事に関しても場所,作業の種類,実施期間等の届出が義務づけられている(18条の15)。現在,特定粉塵の対象物質として石綿が指定されている(施行令2条の2)。
有害大気汚染物質の規制は,96年改正で導入されたもので,従来の規制手法からもれ落ちていた,微量でも長期暴露によって人体に有害な影響を与えるおそれのある化学物質の規制を内容とする。現在,その対象として,ベンゼン,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ダイオキシンの4物質が指定されているが,これらは特に緊急度の高いものであり,これら以外に指定物質が追加される可能性は高い。これら指定物質に関しては,その種類および指定物質排出施設の種類ごとに排出または飛散の抑制に関する基準(指定物質抑制基準)が定められている。
(3)自動車排出ガスに関しては,一酸化炭素,炭化水素,鉛化合物などがその規制対象として定められているが(2条6項),規制手続は,環境庁長官の定めた許容限度を考慮して,運輸大臣が道路運送車両法に基づく命令(保安基準,自動車点検基準)を出し,それにより必要事項を定めるものとされている(19条)。この運輸大臣の命令に違反する車両は,整備不良車として,道路交通法62条により運転が禁止され,運転者には刑罰が科せられる。
大気汚染防止法では,このほか,大気汚染に基づく人の生命・健康への被害発生に対し,無過失賠償責任が定められている(4章の2)。これにより,大気汚染による被害者は,加害者側の故意・過失の有無を立証する責任を免れることとなった。ただし,損害賠償責任の認定には,被害発生と加害行為間の因果関係の,被害者側による立証が依然必要である。
本法の施行により,固定発生源(工場,事業所等)からの大気汚染(特に硫黄酸化物)は概して改善されてきたといってよい。しかし,移動発生源(自動車等)への規制は依然不十分であり,移動発生源に起因する窒素酸化物やばい塵などによる汚染はなお十分に改善しているとはいえない。また,有害大気汚染物質への規制導入など,未規制物質への対応も今後さらに補充されていくものと考えられる。
→大気汚染
執筆者:大村 泰樹
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工場、事業場から生じるばい煙や粉じんなどの排出を規制し、有害大気汚染物質対策の実施を推進し、ならびに自動車から排出される排気ガスに係る許容限度を定めること等により、大気汚染を防止するとともに、大気汚染被害者に無過失で損害賠償を支払うことを定めた法律。昭和43年法律第97号。この法律の前身は、ばい煙の排出の規制等に関する法律(昭和37年法律146号)であったが、大気汚染の深刻化に伴い改正され、現行法となった(なお、無過失責任規定は昭和47年)。その後も、大気汚染防止法は、硫黄(いおう)酸化物の総量規制、建築物解体に伴う石綿(アスベスト)の飛散防止、揮発性有機化合物(VOC)の排出規制などを目的とした改正が行われている。
大気汚染防止法には、ばい煙等の排出基準による排出規制(3条以下)、一定地域の大気汚染をばい煙等の総量を削減することにより減少させようとする総量規制(5条の2以下)、粉じんに関する規制(18条以下)、有害大気汚染物質対策の推進(18条の20以下)、自動車排出ガスの許容限度とそれを超える場合の都道府県知事による要請(19条以下)、無過失損害賠償責任(25条以下)などが定められている。
なお、大気汚染防止に関連した法律では、排ガス規制として自動車排出窒素酸化物総量削減法が、1992年(平成4)に成立した。この法律は、2001年に改正され、窒素酸化物の規制が強化されるとともに、新たに浮遊粒子状物質(SPM、直径12マイクロメートル以下の空気中に浮かぶ大気汚染物質)の排出規制が加えられた。さらに2007年には、排出規制の重点対策地区を指定するための改正が行われた。また、ダイオキシンについては廃棄物処理施設からの排出を極力抑えることがもっとも重要な対策の一つであるとされ、1999年(平成11)ダイオキシン類対策特別措置法が成立した。
[淡路剛久]
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