キセノン(読み)きせのん(英語表記)xenon

翻訳|xenon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キセノン」の意味・わかりやすい解説

キセノン
きせのん
xenon

希ガス元素(貴ガス元素)の一つ。原子番号54、元素記号Xe。1898年、イギリスのラムゼーらによる希ガス元素発見の過程において、アルゴンクリプトンネオンに次いで液体空気の分留によって最後に発見された。命名はギリシア語のxenos(異邦人)による。天然には9種の安定同位体が存在し、人工的にも多数の放射性同位体が得られている。工業的には液体酸素から、クリプトン、アセチレンその他の空気中に存在する炭化水素とともに分留され、酸素と爆発する危険のある炭化水素を触媒酸化して除き、クリプトンとともに低温でシリカゲルに吸着させ、さらに活性炭での選択的吸脱着によって最終的にクリプトンと分離して採集する。X線、γ(ガンマ)線、中性中間子の計数管封入ガス、液化キセノン泡箱に用いられるほか、高輝度電球や写真用長寿命ストロボ発光電球の封入ガスとして利用される。無色無臭で大気中では無害の気体であるが、神経組織の脂質部分に溶解しやすく、高濃度では外科手術の麻酔に利用されることもある。放射性同位体をトレーサーとして生体内脂質代謝機構の研究にも応用される。

[岩本振武]

キセノンの化合物

水、キノールフェノールなどをホストとする包接化合物は、安定な希ガス元素のなかでキセノンがもっとも原子半径が大きいため、キセノンの化合物がもっとも安定である。1962年イギリスのバートレットNeil Bartlett(1932―2008)は、強力な酸化剤である六フッ化白金PtF6をキセノンと反応させて、橙黄(とうこう)色固体のヘキサフルオリド白金(Ⅴ)酸キセノンXe[PtF6]を合成した。これは強い化学結合をもつ最初の希ガス元素化合物である。続いてアメリカのアルゴンヌ国立研究所のグループが、キセノンとフッ素との直接反応で四フッ化キセノンXeF4の合成に成功し、その後フッ素あるいは酸素原子がキセノンと直接に結合した多くの化合物が合成されている。それらの化合物はいずれも強力な酸化剤である。

[岩本振武]



キセノン(データノート)
きせのんでーたのーと

キセノン
 元素記号  Xe
 原子番号  54
 原子量   131.293
 融点    -111.9℃
 沸点    -108.1℃
 密度    気体 5.887g/dm3(0℃,1気圧)
 (比重)  液体 3.057(-108℃)
       固体 2.7(-140℃)
 結晶系   固体 立方
 臨界温度  16.6℃
 臨界圧   58.218atm
 元素存在度 宇宙 7.10(第37位)
          (Si106個当りの原子数)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キセノン」の意味・わかりやすい解説

キセノン
xenon

元素記号 Xe ,原子番号 54,原子量 131.29。周期表 18族,希ガス元素の1つ。天然にはキセノン 132のほか8種の同位体が存在する。 W.ラムゼーにより 1898年,液体空気の蒸発残留物中に発見された。温泉ガス中にしばしば含まれるが,空気中の存在量は 10-5 %程度。単体は単原子で無色,無臭の気体で,沸点-107.1℃。化学的には非常に安定で不活性ガスであるが,1962年カナダの N.バートレットのフルオロ白金酸キセノンの発見以来,キセノンの化学は急速に発展した。現在フッ化物,酸化物,オキシフッ化物が多数知られている。外科麻酔用に用いられることもある。また,キセノンと塩素あるいはフッ素ガスの混合ガスは,エキシマレーザーの発振用ガスとして使われている。

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