職場における労働者の健康と安全の確保や、快適な職場環境の形成促進を目的として、労働災害の防止に関する総合的・計画的な対策を推進することを定めた法律。昭和47年法律第57号。労安衛法、安衛法などと略称される。
労働者は、労務を提供する過程において、危険物質や機械を扱ったり、長時間労働・過重労働に従事したりするなど、さまざまな危険にさらされている。とくに、労働契約を締結している場合には、使用者の指揮命令に従って労務を提供しなければならないため、そのような危険に対する自衛措置を十分にとれない可能性もある。また、労働者は生身の人間であり、労働と人格(心身の健康)を切り離すことができないため、労働災害や過重労働によって後遺障害が残ったり死亡したりするなど、労働契約関係は、不可逆的な損害を生じさせる危険性を絶えず内包している。そこで、労働者の健康と安全が損なわれないようにするための予防的措置を講じる必要性がある。さらに、1960年代から始まった高度成長期において、機械設備の大型化や新たな化学物質の開発等による労働災害の危険性が増大した。以上の状況を踏まえて、それまで労働基準法(昭和22年法律第49号)第5章に規定されていた労働安全衛生規定を抜本的に見直し、その内容を充実させて1972年(昭和47)に制定されたのが本法である。
本法は、「労働基準法と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること」を目的としている(1条)。本法は、その目的達成のために、事業者に安全衛生管理体制の構築を義務づけたうえで、労働者の危険・健康障害を防止するための具体的な措置を講じるべき義務を課したり、医師による健康診断や面接指導を義務づけたりするなどの規定を設けている。
本法の概略は次のとおりである。第一に、事業主に対し、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、産業医、作業主任者等を選任するなどして、安全衛生管理体制を構築すべき義務を課している(第3章)。第二に、事業主に対し、労働者の危険または健康障害を防止するための措置を講じる義務を課している(第4章)。もっとも、具体的な措置の内容については、技術的細部に立ち入ったものになるため、その多くが厚生労働省令にゆだねられている(昭和47年労働省令第32号「労働安全衛生規則」が代表的である)。本法は、このほかに、「機械等並びに危険物及び有害物に関する規制」(第5章)、「労働者の就業に当たつての措置」(第6章)、「健康の保持増進のための措置」(第7章)、および「快適な職場環境の形成のための措置」(第7章の2)を定めるなど、労働者の安全衛生のための多岐にわたる規制を設けている。
本法は、時代と社会の要請にこたえて何回も改正されている。おもな改正は次のとおりである。1988年の改正では、本格的な高齢化社会の到来を受けて、労働者の健康の保持増進のための措置を講じることが事業者の努力義務とされた。また、1992年(平成4)には、技術革新や国際化の進展によって労働者の疲労やストレスが増大したことを受けて、快適な職場環境形成のための措置を講じることが同様に事業者の努力義務とされた。ついで、1996年の改正では、脳・心臓疾患による過労死の増加等を背景として産業医の職責と権限が強化され、健康診断後の医師の勧告を事業者は尊重し必要な措置を講ずるべきものとされた。さらに2005年(平成17)の改正では、長時間労働・過重労働により心身の健康を害する例が増加していることを踏まえ、長時間労働者等に対する医師の面接指導制度の導入が行われた。
さらにその後、2014年にも改正が行われた。ここでは、化学物質に関する規制の見直し、受動喫煙防止に関する努力義務の創設や、重大な労働災害を繰り返す企業に改善を促すための新たな規制の導入など、重要な改正が行われた。そのなかでもとりわけ注目されるのが、ストレスチェック制度を創設した点である(66条の10)。長時間労働や上司からの厳しい指導など、労働者は日々強いストレスにさらされながら労務を提供している。それゆえ、労働者の安全衛生については、身体に対する物理的な事故を防止することだけでなく、心理的な負荷が過度なものとならないように防止することが必要となる。そこで、本制度は、一定規模以上の事業場の事業者に対して、労働者の心理的な負担の程度を明らかにするための医師等によるストレスチェックを実施することを義務づけている。そのうえで、労働者の意向を尊重しつつ、面接指導の実施や、必要な場合には業務軽減を行わせるなどして、労働者の心理的負荷が過度なものにならないように配慮している。
[土田道夫・岡村優希 2018年11月19日]
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[健康診断の義務]
健康診断は,国,事業所,地域,学校などでの保健サービスの重要な要素となっている。雇用者のいる事業所では,労働安全衛生法により,従業員の雇入れ時,およびその後の定期的な健康診断(一般健康診断と特定の有害業務に対する特殊健康診断)が義務づけられている。同様に,公務員に対しては人事院規則により,雇人のいない自営業主や家族従事者に対しては家内労働法や保健所法により,学校(教職員,学生,生徒,児童,幼児)に対しては学校保健法により,それぞれ健康診断が義務づけられている。…
…労働者の就業にかかわる建設物,設備,原材料,ガス,蒸気,粉塵(ふんじん)などにより,または作業行動その他業務に起因して労働者が負傷し疾病にかかり,または死亡することを労働災害というが,それを未然に防止することはもちろん,さらに労働者が快適に作業できるよう作業条件・環境を適正に整備し併せて健康管理を行い労働者の安全と健康の確保を目的とする諸施策や活動をいう。その内容・基準については,労働基準法や労働安全衛生法(後述)を中心とする関係法規が定めているが,各事業場ではそれを遵守することはもちろん,さらに安全衛生水準向上のためきめ細かな対策が必要となる。土木・建設,鉱業,港湾荷役などの産業部門では死傷などの労働災害が多発し,製造工業でもとくに危険な機械を使用する木材加工業などでは負傷災害が少なくない。…
…1947公布),最低賃金の決定手続を定め(最低賃金法。1959公布),さらに企業における安全衛生体制の確立と安全衛生基準の整備を図るほか(労働安全衛生法。1972公布),1970年代以降の景気動向の深刻化に対応して退職手当の保全措置を企業に求め,倒産に際しての未払賃金の立替払いを行う(賃金の支払の確保等に関する法律。…
※「労働安全衛生法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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