日本大百科全書(ニッポニカ) 「オアシス」の意味・わかりやすい解説
オアシス
おあしす
oasis
砂漠で利用可能な水がつねに得られる所。水量が多いオアシスでは農耕が可能であり、またエジプトのカイロやシリアのダマスカスなど、大都市も多く発達している。水の存在状態から泉性オアシス、山麓(さんろく)オアシス、外来河川オアシス、人工オアシスの四つに分類される。
[赤木祥彦]
泉性オアシス
地表に流出するか浅い所に存在する水で、水源は三つに分類される。
(1)被圧地下水 サハラ砂漠、アラビア砂漠、オーストラリア砂漠など、安定陸塊では砂岩が厚く広く堆積(たいせき)しており、砂と砂の間隙(かんげき)に多量の水が地表から浸透し、滞水層を形成している。この滞水層が不透水層に挟まれていると、気圧以上の圧力が加えられる。また滞水層が地表に露出していたり、断層で切られ地表につながっていると地表に流出する。被圧地下水は硬い砂岩の隙間(すきま)を緩やかに移動するので、塩類を含んでいる。塩類を多く含んでいると利用できないので、利用できる水量は限られている。アルジェリアのイン・サラー・オアシス、エジプトのカルガ・オアシスなど大きなオアシスの水源は、崖(がけ)に出現した滞水層から流出した水である。被圧地下水でも平坦(へいたん)な地形の所では地表に流出することはほとんどなく、浅い滞水層に井戸を掘り利用されてきた。
(2)自由地下水(不圧地下水) 堆積盆地やワジ(水無川)の砂礫(されき)層の中にたまっている水で、砂礫の隙間を通して空気に接しているため、自噴することはなく、井戸を掘って利用している。塩類をほとんど含んでいないので、すべての水が利用できる。
(3)砂丘の底にたまっている水 砂丘に降った水は砂丘の低所まで浸透するが、砂の間隙が大きいために毛管現象がおきず、そのまま砂丘の低所にたまり、砂丘の周辺に流出してくる。大砂丘の前面にナツメヤシが植えられている風景の写真をよくみかけるが、これが砂丘オアシスである。
[赤木祥彦]
山麓オアシス
イランから中国西部にかけてなど、造山帯に位置する砂漠の中や周辺部には高度の高い山地が発達している。これらの山地には地形性の雨や雪が降る。山麓には大規模な扇状地が発達しているため、山地斜面を流れる河川は中国のタリム川などの大河川を除き、扇状地に達すると伏流水となり、そのまま盆地底の堆積層の中に流入する。この伏流水を地表に導水する地下水路が古くから利用されており、北アフリカではフォガラ、イランではカナート、アフガニスタンではカレーズ、中国西部では坎児井(カンアルチン)とよばれているがカレーズという名称も使用されている。この地下水路の長さは10~20キロメートルのものが多いが、イランでは50~70キロメートルに達するものも珍しくない。地下水路は崩壊しやすいため、近年は動力による深井戸が多く掘削されるようになり、放棄されてしまったものがたくさんみられる。東アジアとヨーロッパを結んだシルク・ロードは山麓オアシスを結んで発達した。
[赤木祥彦]
外来河川オアシス
砂漠の外から砂漠に流入する河川の多くは砂漠の中で消え、末無川(すえなしがわ)となっている。しかし、ナイル川やティグリス川、ユーフラテス川、シルダリヤ川、コロラド川などの大河川は、海や湖に流入している。水量が非常に多量なため、流域には広大な耕地、大都市もみられる。
[赤木祥彦]
人工オアシス
人力や家畜の力では得られなかったが、新しい技術により利用できるようになった水をいう。水源は二つに分けられる。一つは地下水で、石油採削のため開発されたボーリング技術を応用した深井戸で、深さ2000メートルに達するものもある。安定陸塊では被圧地下水が、造山帯の断層盆地では自由地下水が揚水されている。サハラ砂漠の地下水は滞水層により含有塩類濃度が異なり、濃度の低い水は灌漑(かんがい)に使用されているが、オーストラリアの地下水は濃度が高く、家畜の飲用水にしか使用されていない。人間の飲み水には雨水が使用されている。北アメリカ砂漠の盆地には大量の自由地下水が存在し、広大な灌漑耕地が開発されている。ネバダ州のラス・ベガスやアリゾナ州のトゥーソンなどは大規模な人工オアシス都市の例である。もう一つは砂漠やその近くを流れる河川にダムを建設し、水を引く方法である。ナイル川のアスワン・ハイ・ダム、コロラド川の水を利用したインペリアルバレー(インペリアル谷)の耕地化、アマゾン川の上流にダムを建設してアンデス山脈にトンネルを掘り、太平洋側の河川へ導水しているペルーのマヘス開発などはその代表的なものである。人工オアシスは大量の水を得られるが、大規模な塩害の発生、地盤沈下、ダムから下流の河床低下など不利益ももたらす。
[赤木祥彦]