改訂新版 世界大百科事典 「直接税間接税」の意味・わかりやすい解説
直接税・間接税 (ちょくせつぜいかんせつぜい)
直接税と間接税を区別する基準はいろいろあるが,転嫁(〈租税理論〉の項参照)の有無を用いるのが一般的である。直接税は,法律上の納税者が究極的にもその税を負担すると考えられる税であり,間接税は,納税上の便宜性のゆえに,ある特定の法律上の納税者に直接的には税を支払わせるが,究極的には社会の他の主体に負担が転嫁されて,それらの主体が真の納税者であると想定できる税である。おもな直接税としては,国税に所得税,法人税,相続税があり,地方税に住民税,固定資産税,事業税などがある。間接税の種類はきわめて多いが,おもなものとして国税に消費税,酒税,揮発油税,たばこ税,関税など,地方税に地方消費税,軽油引取税などがある。
直接税と間接税との比率(〈直間比率〉という)は,租税体系の構築において重要な要素となる。日本では第2次大戦後に直接税の比率が高まっており,1934-36年度平均で34.8%であったものが,近年は70%くらいにまで上昇している。アメリカの直接税の割合は,1935年ころに43%くらいであったが,戦後はずっと高く近年は90%くらいである。イギリスでも戦後直接税の比率は上昇傾向にあり,戦前の50%くらいから62~63%くらいになったが,しかし1943年度の64.2%をピークに減少傾向にあり,95年では,56.7%まで下がり,直接税より間接税の割合が増しつつある。イタリアの直接税の比率は,1935年ごろには27.0%であったものが,95年には54.8%まで上昇している。それに対し,ドイツやフランスでは間接税の比率が高く,1995年の直接税の比率は,ドイツの場合47.9%,フランスの場合39.6%である。西ヨーロッパ各国の直接税の比率はアメリカや日本よりはかなり低い。直接税は間接税と比べ,納税者によって負担として意識される程度が高く,公共サービスを負担との関係において選択するためには望ましいが,それだけに租税に対する抵抗が強いから必要な税収を十分に確保できないおそれがある。日本でも70年代半ば以降導入が論議され,89年4月より実施された一般消費税も,多分に財源調達のためという目的が強い。また直接税は納税者の負担能力に合わせて細かく調整ができるのであるが,所得の補足率の問題に代表されるような税務行政上の深刻な制約条件がある。
執筆者:林 正寿
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報