酒類に課される間接消費税。酒類を一定のアルコール分以上(日本では1度以上)の飲料と定義し、原料、製法、アルコール分ごとの税率を設け、酒類製造者や卸・販売業者に課す税金である。酒類は普遍的な嗜好(しこう)品で、消費量も安定的で税収を確保しやすく、過度な飲酒は社会風紀を乱すおそれがあるため高率税が容認されやすい。このため酒税は世界各国で、所得税とならぶ税制の主要税目となってきた。日本では、鎌倉時代から酒麹(さけこうじ)売業者への臨時徴税が行われ、恒常的な課税は1371年(応安4)、足利義満(よしみつ)が酒屋に課したのが最初とされる。近代的酒税は1871年(明治4)の太政官(だじょうかん)布告「清酒、濁酒、醤油(しょうゆ)醸造鑑札収与並ニ収税方法規則」制定に始まる。1896年に酒造税法が、1918年(大正7)には酒精及酒精含有飲料税法と麦酒税法ができ、1940年(昭和15)に酒税法として統一された。現行の酒税法は1953年(昭和28)の制定。酒税制度は、酒類消費の変化、税収の確保、国際税制との調和の観点や、1900年の義和団(ぎわだん)事件(北清(ほくしん)事変)後の軍備増強のためビール課税が始まったように、政策目的で頻繁に改正されている。
日本の税収は、明治初期には地租が国税収入の大部分を占めたが、その後、酒税比率が上昇し、1899年には酒税が35.5%と地租32.5%を上回った。国税全体に占める酒税比率は1930年19.8%、1950年18.5%と戦前戦後を通じて主要税の座にあった。しかし1970年7.9%、1990年(平成2)3.1%と下がり、2018年(平成30)に2.1%まで低下。酒税収入もピークの1988年に2兆2021億円あったが、2019年(令和1)には1兆2710億円まで減った。1975年の課税対象となる酒類数量はビール(63%)と清酒(28%)で全体の9割を占めていたが、2018年にはビール29%、リキュール28%、スピリッツ等9%、発泡酒7%、清酒6%と多様化が進んだ。
国際化に対応して酒税制度は変わってきた。戦後、酒税は原則として従量税で、一部の高価格酒(清酒特級、ウイスキー類など)のみに従価税を適用していた。しかし貿易自由化が進み、1980年代にヨーロッパ諸国が日本の酒税制度は貿易障壁であると改善を求め、ガット(GATT、関税および貿易に関する一般協定)が日本に酒税制度を是正するよう勧告。1989年酒税法改正で、従価税と清酒・ウイスキーの級別制度を廃止し、ウイスキーなどの税率を下げた。1996年には世界貿易機関(WTO)から焼酎(しょうちゅう)とウイスキーの酒税格差是正を勧告され、ウイスキーの税率を下げ、焼酎の税率を上げた。その後も、日本の酒税制度(10種類に分類)が複雑との批判を受け、2006年酒税法改正で、ビールなどの「発泡性酒類」、日本酒やワインなどの「醸造酒類」、焼酎やウイスキーなどの「蒸留酒類」、梅酒やチューハイなどの「混成酒類」の4分類に簡素化した。2017年改正では、海外市場を開拓する目的で、訪日外国人に対し国内酒蔵やワイナリーでの酒税免税制度を導入した。現行制度も従量税の形式をとっており、4分類ごとに基本税率を定め、さらに細かな種類やアルコール分ごとに酒税率をきめている。酒税の基本税率(2020年10月時点、1キロリットル当り)は、(1)発泡性酒類20万円(2026年10月に15万5000円まで引下げ)、(2)醸造酒類12万円(2023年10月に10万円に引下げ)、(3)蒸留酒類20万円(アルコール分21度以上は、アルコール分が20度を超える1度ごとに20万円に1万円を加えた金額とする)、(4)混成酒類20万円(アルコール分21度以上はアルコール分が20度を超える1度ごとに、20万円に1万円を加えた金額とする)。
消費量が増える酒類は担税能力が高いと判断して増税し、消費が低迷する酒類は減税する傾向にある。第二次世界大戦後、清酒、ビール、ウイスキーの酒税は増税を繰り返したが、清酒消費が低迷した平成期(1989~2019年)に入ると、ビールを増税した。1994年のビール増税に対し、ビール会社は麦芽使用量を規定(67%以上)より抑えるなどした「発泡酒」を開発し、2003年の発泡酒増税時には、麦芽を使わずにエンドウ豆などでつくった「第3のビール」を開発し、新商品開発で増税に対抗してきた。この結果、似た味のビール系飲料であるのに「ビール」「発泡酒」「第3のビール」の税額が異なるという日本独特のゆがみが生じた。このため2017年酒税法改正で、2020年10月から2026年10月にかけて段階的に三つのビール系飲料の酒税(350ミリリットル)は54.25円に統一。「ビール」を22.75円減税する一方、「発泡酒」は7.26円、「第3のビール」は26.25円、それぞれ増税とする。日本酒類、ワイン類、チューハイなどの低アルコール飲料の酒税(350ミリリットル)は35円に統一する。日本酒類は7円の減税となる一方、ワイン類や低アルコール飲料は7円増税とし、酒造会社やビール会社に世界市場での競争を促す。
なおスーパーマーケットやコンビニエンス・ストアでの酒類販売の拡大で、過去20年間で酒類の小売店は全国で3割増えたが、個人経営などの一般酒販店は約4万1000店と4割に減った(2016年度国税庁資料)。中小酒販店を支持基盤とする自民党などは、量販店の酒類安売りが「街の酒屋さん」の経営を圧迫しているとして、議員立法で酒税法を改正(2017年6月施行)し、酒類の過度な安売りを規制した。酒類を扱う小売店に、総販売原価(仕入れ値+人件費などの販売管理費)を下回る価格での販売を禁止し、小売店が値下げの原資としているビール会社からの販売奨励金(リベート)の支払い基準を厳しくした。国税庁は違反した場合、社名公表、50万円以下の罰金、酒販免許取消しなどの処分を科すとした。
[矢野 武 2021年1月21日]
製造場から移出される酒類または保税地域から引き取られる酒類に対し,酒税法(1953年制定)に基づいて課される国税で,消費税の一種。酒類には,タバコと同様高率の負担が課されており,諸外国でも付加価値税等の一般的な消費税とは別に酒税が課される例が多い。これは,酒類が,(1)第一義的な生活必需品ではなく,致酔性を有する特殊な嗜好品であること,(2)適量をこえた消費は健康,道徳,社会秩序の観点から望ましくないこと,(3)その消費はかなり普遍的で消費数量も多く,税を課することにより相当の財政収入が確保できること,等の理由によると考えられる。酒類に対する課税の歴史は古く,日本では1371年(応安4)足利義満が酒屋に壺(つぼ)別200文を課したのが始まりといわれる。近代では1871年(明治4)に太政官布告(清酒,濁酒,醬油醸造鑑札収与並ニ収税方法規則)が制定され,免許税と醸造税との2本だての課税方式による全国画一の税制が実施された。96年に酒造税法が制定されて製造石数に応じ定額(従量税)で課税する造石税方式1本に改められ,1938年まで続いた。その後,造石税方式と庫出税方式(製造場から移出するときに,その移出高に応じて課税する方式)の併用時代を経て,44年には庫出税方式1本に改められた。酒税法は53年に制定され数次の改正を経ている。現行酒税法は,1988年に消費税法が制定され酒類も〈消費税〉の対象とされることになった機会に,従価税制度の廃止,清酒・ウィスキー類の級別制度の廃止,酒類間の税負担格差の縮小等,いくつかの重要な改正を受けた。また,この改正によって,酒税制度は著しく簡素化されたのである。さらに,97年税制改正において,焼酎(しょうちゅう)やウィスキー等の蒸留酒に係る酒税の税率の改正が行われた。酒類のうち,焼酎およびリキュール類の税率が引き上げられるとともに,ウィスキーおよびブランデー等の税率が引き下げられることにより,WTOの勧告に対応した税率格差の大幅な縮小が図られた。
酒税の課税対象は,アルコール分1度以上の飲料(薄めてアルコール分1度以上の飲料とすることができるもの,または溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含む)とされている。
酒税法は,酒類を原料,製造方法等により種類,品目,級別等に区分し,それぞれに異なる税率を設けている(いわゆる分類差等課税制度)。すなわち,清酒,合成清酒,焼酎,みりん,ビール,果実酒類,ウィスキー類,スピリッツ類,リキュール類および雑酒の10種類に分類され,さらに焼酎等5種類については,品目別に細分されている。税率は上記の分類に応じて異なるが,従量税(たとえば,ビールは1klにつき22万2000円)である。標準的な小売価格に占める酒税の割合は,清酒16.3%,焼酎甲類25.5%,焼酎乙類17.0%,ビール45.5%,ウィスキー39.5%である(1997年9月現在の実勢価格に対する比率)。これを主要諸外国と比較すると,たとえばウィスキーは諸外国においてもほぼ同水準であるが,ビールの場合は総じて諸外国のほうが日本より低くなっている。国税収入に占める酒税の地位は,明治時代には1位を占めたこともあるが,現在(1995)でも,所得税,法人税,消費税,相続税に次ぎ,また間接税のなかでは消費税に次いでおり,税収上の重要性は決して無視できない。なお酒税保全等の観点から,酒類の製造および販売業については,税務署長の免許制度が設けられている。
執筆者:浜本 英輔
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…明治初期における酒造業者の酒税軽減運動の一つ。当時の租税収入は地租,酒税などに限られていたことから,政府財源における酒税の占める割合は高かった。…
…97年になると,地租は税制の王座を,消費税を中心とする間接税に譲り渡すことになる。酒税,関税,専売益金,印紙収入がしだいに比重を増していくが,とりわけ酒税は99年には単独で地租を凌駕し,地租に代わって税制の王座についた。明治期の税制には,減退の一途をたどる地租と増大を重ねる所得税とが描きだす顕著なコントラストがみられる。…
※「酒税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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