国が賦課・徴収する税をいう。地方公共団体が賦課・徴収する地方税に対して用いられる。
[林 正寿]
現代国家は租税国家ともよばれ、国家が自ら生産手段を有して生産活動に従事し、必要な歳入を確保するのではなく、民間経済の純生産の一部を租税というかたちで徴収し、さまざまな財政需要にあてる。日本を含めた多くの国において、公共部門には中央政府とともに地方政府が設置されているが、中央政府はしばしば慣用的に国とよばれる。それゆえ国税とは国、すなわち中央政府が賦課・徴収する税をさし、地方政府が賦課・徴収する地方税に対峙(たいじ)して用いられる。
日本の2007年度(平成19)決算においては、国税と地方税の総額は92兆9226億円であり、国税は56.7%、地方税は43.3%を占める。国税は直接税と間接税に分類できるが主要直接税には所得税(17.3%)、法人税(15.9%)があり、主要間接税には消費税(11.1%)、揮発油税(2.3%)、酒税(1.6%)がある。地方税の直接税は37.1%、間接税は6.2%である。主要直接税には住民税(17.8%)、固定資産税(9.4%)、事業税(6.3%)があり、主要間接税には地方消費税(2.8%)、軽油引取税(1.1%)がある。なお( )内の数値は国税と地方税の総額に占める比率を示す。
ただし、国税収入のすべてが国の事務遂行のために直接支出されるわけではなく、日本ではその一部は、地方公共団体間の財政力調整を目的として地方公共団体に交付される地方交付税の財源として用いられる。地方交付税の財源は戦後長期にわたり所得税、法人税、酒税という国税3税の32%であったが、この部分については分与税として地方の税収とみなすことができる。開発途上国などにおいて税務行政能力が十分に発達していない状況下では、国の賦課徴収する一定比率を地方の税収とみなして徴収する分与税方式が推奨されている。日本では、その後消費税とたばこ税が加わって国税5税となり、その税収の一定比率が地方交付税の税源に設定されている。2007年度においては、所得税および酒税の収入見込額のそれぞれ32%に相当する額、法人税の収入見込額の34%に相当する額、消費税の収入見込額の29.5%に相当する額ならびにたばこ税収入見込額の25%に相当する額である。
また、地方公共団体の遂行する各種地方事務についても、国はナショナル・ミニマム(国民に保障される最低生活基準)の確保という観点からそれらの質と量に関心をもち、国庫支出金とよばれる特定補助金を交付して地方サービスの質と量を確保しようとするが、国税の一部はこれらの財源として用いられる。地方の歳入のうち地方税収の比率は2007年度において44.2%であり、地方交付税が16.7%を、国庫支出金という特定補助金が11.3%を占める。これらの地方交付税や国庫支出金の財源は国税として徴収されるが、地方に移転され、地方公共団体により最終支出される。
国や地方公共団体などの必要な財源をどのような税により調達するか、また、これらの税を国と地方公共団体との間でどのように配分すべきか、さまざまな選択の余地がある。租税一般についての租税原則に追加して、地方税については地方税原則がいくつか定められているが、国税原則というものはとくに存在しない。日本が今後地方分権を充実させていく場合に、各種税のなかから地方税原則にかなう税を地方税として優先的に選択し、残余の税を国税として配分するという選択も考えられる。税収が景気変動などの影響を受けて激しく変動し安定性を欠いたり、特定の地方公共団体に偏在する税が存在する。これらの税は地方税としては不適当であるので、国税として徴収した一部を分与税として地方に移転して再分配を目的とする地方交付税としたり、また地方事務であっても国がある程度の責任を分担するものに対して、その一部の経費を特定補助金の形で負担する、という形が望ましい。
[林 正寿]
『『財政金融統計月報、租税特集』(大蔵省印刷局、2001年より財務省印刷局発行。租税特集は毎年4月ごろ発行)』▽『国税庁『国税庁統計年報書』各年版(大蔵財務協会)』
国すなわち中央政府が課税し徴収する税を国税と呼ぶ。これに対して,都道府県や市町村のような地方公共団体の課税する税を地方税と呼ぶ。国民所得に対する租税負担額の割合は租税負担率と呼ばれて,租税負担の相対的な大きさを表す指標として重視されているが,1995年度の国税と地方税との合計租税負担率は23.3%,国税の対国民所得比は14.5%であり,高齢化等により社会保障関係費等財政需要が確実に見込まれるので,今後ともある程度上昇することが予想される。日本における国税と地方税との相対的大きさをみると,徴収額では国税の租税総額に占める割合は81年度で63.7%であり,第2次大戦後は低下傾向にある。この割合は1935年度には66.7%であり,61年度には71.1%であった。ところが国税として徴収された財源は地方交付税,地方譲与税,国庫支出金の形で地方公共団体に交付されるから,国税・地方税総額を含めた実際の歳出の割合でみると,95年度で国が35.4%,地方が64.6%となり,地方の割合のほうがはるかに高くなる。
日本の国税は直接税が66%,間接税が34%を占め,各種税からなる租税体系をなしている(1995年度。直接税・間接税)。1995年度予算でみると,最大の税収をもたらす税は所得税であり,国税収入総額の35.5%を占める。次に法人税が重要な地位を占め,25.0%である。間接税のなかでは,消費税10.5%,酒税3.7%,揮発油税3.4%,印紙収入3.5%,たばこ税1.9%などが主要な税である。日本も含めた先進諸国はほとんど例外なく巨大な財政赤字の問題を抱えているが,日本の国債依存度はとくに高く,いちばん高かった1979年度には34.7%,95年度予算においても26.4%にものぼっている。
→租税
執筆者:林 正寿
所得税法,法人税法,相続税法,消費税法というように,税目ごとに単独の法律があって,それぞれの納税義務者,課税物件,課税標準,税率等について定めており,さらに,それぞれの法律の定めを補充するため政令(施行令),省令(施行規則)が制定されている。また,各国税に関する基本的な事項ないし共通的な事項について定める法律として,国税通則法,国税徴収法,国税犯則取締法および災害減免法(〈災害被害者に対する租税の減免,徴収猶予等に関する法律〉の略称)がある。国税通則法は,日本の国税に関する法律が多数の単独法からなり,規定が重複したり,不備・不統一であったうえ,租税法律関係について種々の疑義が生じていたため,租税法の体系的整備と租税法律関係の明確化を目的として制定されたものである。国税徴収法は,国税の滞納処分の手続および国税と他の債権との優劣の調整について定めた法律である。また,国税犯則取締法は,国税に関する犯則事件(たとえば脱税)の調査および処理について特別の手続を定めた法律である。やや特殊な性格を有する法律として,租税特別措置法があり,各国税に関する租税特別措置(たとえば利子所得の源泉分離制度,各種準備金の制度等)を定めている。なお,国税のうち,内国税は原則として,国税庁の下部組織である国税局および税務署によって賦課・徴収され,関税は関税局の出先機関である税関によって賦課・徴収される。
執筆者:金子 宏
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