化学辞典 第2版 「硫化モリブデン」の解説
硫化モリブデン
リュウカモリブデン
molybdenum sulfide
MoS2,MoS3,MoS4,Mo2S3,Mo2S5,Mo3S4などが知られている.【Ⅰ】二硫化モリブデン:MoS2(160.072).天然に輝水鉛鉱として存在する.モリブデンと計算量の硫黄の直接反応,MoS3をH2S中で加熱,またはMoS3を硫黄と炭酸カリウムの混合物で融解すると得られる.黒色粉末または六方晶系の結晶.密度5.06 g cm-3.融点1185 ℃.半導体,反磁性,高温でもっとも安定な硫化物.王水,沸騰した濃硫酸には溶けるが,酸化力のない酸,アンモニアには侵されない.6個のS原子を頂点とする三角柱型構造のなかに,Mo原子を取り込んだ構造が連なって層状格子をつくっていて,層がすべりやすく,グラファイト(黒鉛)のような機械的性質を示す.高温用潤滑剤で,自動車用エンジンオイル,ギヤオイル,グリースなどに多用される.水素化脱硫触媒として石油産業でも重要である.[CAS 1317-33-5]【Ⅱ】三硫化モリブデン:MoS3(192.1).黒色の固体.モリブデン酸塩の弱酸性溶液にH2Sを通じると沈殿する.褐色の粉末.水に不溶.硫化アルカリ溶液で温浸すると溶けて,赤褐色のチオモリブデン酸塩となる.[CAS 12033-29-3]【Ⅲ】三硫化二モリブデン:Mo2S3(288.078).融点1807 ℃,沸点1867 ℃.密度5.91 g cm-3.[CAS 12033-33-9]【Ⅳ】五硫化二モリブデン:Mo2S5,MoⅤの硫酸酸性溶液を亜鉛で還元し,H2Sを通じるとMo2S3の沈殿が生じ,これをCO2気流中で熱するとMo2S5粉末が得られるとされているが,きわめて酸化されやすく確実には分離されてはいない.[CAS 12033-34-0]
このほか,四硫化モリブデンMoS4[CAS 12136-77-5],四硫化三モリブデンMo3S4[CAS 39432-48-9]などがある.「モリブデン及びその化合物」としてPRTR法・第一種指定化学物質 経口慢性毒性クラス3,労働安全衛生法〔名称等表示〕名称等を通知すべき有害物.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報