糸を引く(読み)いとをひく

精選版 日本国語大辞典 「糸を引く」の意味・読み・例文・類語

いと【糸】 を 引(ひ)

① 糸を抜き出す。糸を繰(く)る。糸をつむぐ。
書紀(720)神代上(水戸本訓)「又口の裏(うち)(かひこ)を含みて、便ち絲抽(ヒク)こと得(え)たり」
※鶏(1909)〈森鴎外〉「糸を引いてゐる音がぶうんぶうんとねむたさうに聞えてゐる」
② 張った糸を動かして、あやつり人形を操作する。
※有馬私雨(1672)一「からくりの糸ひくならで糸まきし人形筆をつかふ面白」
③ (あやつり人形を動かすところから) 陰で人をあやつる。裏で指図をして人を思うように動かす。
浄瑠璃神霊矢口渡(1770)一「新田足利威を争ひ、合戦に及ぶ様に糸(イト)を引かせ」
④ 物事がうまく行なわれるように力を添える。手引きをする。
※歌舞伎・名歌徳三舛玉垣(1801)四立「兼而(かねて)お主(ぬし)が糸を引いて、斑鳩(いかるが)太良より玉垂婆(たまだればばあ)へ預け置たる〈略〉宝物の箱」
芸事の系統や縁故がつながる。系統をひく。〔南水漫遊拾遺(1820頃)〕
⑥ 相手の心にさぐりを入れる。
狂歌・徳和歌後万載集(1785)九「それとなく恋の糸ひく心ねをほりてきくのも蓮葉なりけり」
⑦ 糸を引っ張ったように、細長くまっすぐになっているたとえ。
仮名草子浮世物語(1665頃)三「京海道は、これより糸を引たる如くに直(すぐ)なる道なり」
⑧ 糸を引っ張ったように細く長く切れないでいるたとえ。特に、納豆や、食品が腐ったり、煮詰まったりして、ねばり気がでた時のさま。
※和名集并異名製剤記(1623)「杜仲 とちう〈略〉剉めども、絲がひいて切れぬ者ぞ」
火垂るの墓(1967)〈野坂昭如〉「糠のむし団子糸ひいたのを」
⑨ ある行為・状態影響が、あとまでつづくさま。
※狂歌・銀葉夷歌集(1679)九「糸を引酒に酔ふし是や此くだをまくらの夢ようつつよ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「糸を引く」の意味・読み・例文・類語

いと・く

《操り人形を、糸を引いて動かすことから》裏で指図して人を操る。「陰で―・く者がいる」
影響などが長く続いて絶えない。「いつまでも―・いて困る」
ねばついて糸を張ったような状態になる。「納豆が―・く」
ボールなどが、まっすぐ空中を動いていく。「―・く打球左前に飛ぶ」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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