人形浄瑠璃。時代物。5段。通称《矢口渡》。福内鬼外(平賀源内)作,吉田冠子(3世吉田文三郎)・玉泉堂・吉田二一補助。1770年(明和7)1月江戸外記座初演。新田義興が武州矢口渡で横死し,その霊が雷電となったという新田明神の縁起を《太平記》をもとに脚色,鬼外の代表作であり江戸浄瑠璃の名作である。新田義興の死後,その遺臣由良兵庫之助と義興の弟義峰,それに思いをよせる矢口の渡し守の娘お舟と父頓兵衛の活動が中心で,歌舞伎では,94年(寛政6)8月桐座が初演。1831年(天保2)5月,河原崎座で5世沢村宗十郎のお舟を相手に7世市川団十郎が頓兵衛を演じてから今日の型が定着した。四段目の〈頓兵衛内〉がもっぱら上演されるが,頓兵衛の徹底した凶悪の性格が異色。お舟は片恋の義峰を逃がし,義峰を殺して手柄にしようとした頓兵衛に斬られて深傷を負いながら太鼓を打つところがヤマ。義峰を逃がそうと思案するところを人形振りでやる型もある。頓兵衛は〈鳴鍔(なりつば)〉というチャリンチャリンと鍔の鳴る刀を振って,蜘蛛手蛸足(くもでたこあし)という技法で引っ込むのが特殊。また,お舟のクドキで〈琥珀の塵や,磁石の針〉などの詞が使われているのも科学者源内らしい。人形浄瑠璃は本来大坂中心のものだが,この作は場所も事件も江戸中心に描かれている点が珍しい。お舟は,八百屋お七の変形で,櫓の太鼓を打つくだりに女の念力をみせる。沢村宗十郎の家の芸〈高賀十種〉の一つとして現在もこの場が上演されている。
執筆者:落合 清彦
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浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。時代物。5段。福内鬼外(ふくうちきがい)作。1770年(明和7)1月、江戸・外記座(げきざ)初演。『太平記』を原拠に、新田義貞(にったよしさだ)遺族の事跡を脚色した作だが、中心はいまも矢口渡(東京都大田区)に伝わる新田明神の縁起を描いた四段目「頓兵衛内(とんべえうち)」で、歌舞伎(かぶき)でも多く上演される。通称「矢口渡」。義貞の子義興(よしおき)が奸臣(かんしん)の裏切りで滅んだあと、義興の弟義岑(よしみね)は落武者となり、愛人のうてなを連れて矢口渡の渡し守頓兵衛の家に泊まる。かつて義興を謀殺した頓兵衛は、義岑をも討ち取って賞金を得ようとするが、娘お舟は義岑を恋して彼を逃がし、身替りに父の刃(やいば)にかかる。頓兵衛は飛んできた新田家の神矢に貫かれて最期を遂げる。蘭学(らんがく)者・科学者として活躍した平賀源内が福内鬼外の筆名で書いた浄瑠璃の代表作で、詞章にもそれらしい文句が多い。恋と孝との板挟みになるお舟の可憐(かれん)さ、瀕死(ひんし)の娘の諫言(かんげん)にも改心せぬ頓兵衛の強欲さが特色で、とくに頓兵衛には性格を表す演出が巧みにくふうされている。
[松井俊諭]
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