改訂新版 世界大百科事典 「紫外線天文学」の意味・わかりやすい解説
紫外線天文学 (しがいせんてんもんがく)
ultraviolet ray astronomy
地球大気による吸収を避けて,大気圏外から恒星や銀河の放つ紫外放射を観測し研究する天文学の一分野。従来,成層圏気球やロケットに搭載した望遠鏡によって行われてきたが,1968年にアメリカ航空宇宙局によって打ち上げられた軌道望遠鏡(OAO-2)によって本格化した。以後約10台の大小の望遠鏡が軌道上で活動し,アメリカとヨーロッパが1978年に共同で大西洋上の静止軌道に打ち上げた口径45cmの国際紫外探査衛星(IUE)が15年にもわたって稼働した。1991年からはハッブル・スペーステレスコープも紫外線域での観測を行っている。紫外域は波長400~300nmの近紫外,300~200nmの中間紫外,200~100nmの遠紫外,100~10nmの極紫外に大別される。近紫外域は地上の高山から,また中間紫外域は気球からも観測できるが,200nm以下は真空紫外域とも呼ばれ,大気圏外に出て観測する。91nm以下の短波長では星間水素による吸収が強いために,あまり遠距離の天体を観測できず,探査も進んでいない。強い紫外線を放つ高温度の恒星や活動的な銀河,クエーサーなどが観測の対象となるほか,これらの天体の放射を背景として,星間物質や銀河間物質の吸収特性も研究される。宇宙に大量に存在する低温度の恒星の紫外放射は非常に弱いので,紫外域観測では,それらの中に埋もれている高温度の,あるいは活動的な天体を選択的にとらえることが可能となる。ただし,近距離にある太陽の紫外放射は十分に強い。
執筆者:小平 桂一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報