準星,クエーサーquasar,QSO(quasi-stellar objectの略)とも呼ばれる。QSOを,電波を放射している恒星状電波源QSS(quasi-stellar radio sourceの略)と,電波をほとんど出していない恒星状銀河QSG(quasi-stellar galaxyの略)に区別することもある。天体写真乾板上で星のように(すなわち角度で1秒以下の大きさ)見えるが,星ではない。光を波長別に分けるスペクトル写真をとると,ガス状天体に特有の輝線が見られるが,大きい赤方偏移を示している。現在知られているいちばん大きい赤方偏移の恒星状天体はPKS 2000-330という電波源で,その値は3.78である。赤方偏移の原因を,ハッブルの膨張宇宙によるものとすると,その速度は光速の実に92%にも達する。観測できる宇宙の果てに近い,140億光年かなたのもっとも遠い天体である。恒星状天体のスペクトルでは,吸収線を示すものもあり,しかも赤方偏移の値の異なるいくつかの系からできている。一般には吸収線の赤方偏移の値は輝線のそれより小さい。この吸収線を示すガスは,恒星状天体から放出されたガス雲か,恒星状天体とわれわれの間に重なった遠方の銀河によって生じたものと考えられる。このように遠方の天体が見えるということは,固有の明るさがきわめて大きいことを意味し,絶対等級で-27,すなわち太陽の5兆倍の明るさになる。エネルギーの大部分は赤外線として放出されるが,X線領域から電波領域まで,すべての波長域で検出されているものもある。恒星状天体の多くは,また数日から数年の時間尺度で明るさを変化させている。このことは天体の大きさが,光速で数日で横切れることを意味し,したがって太陽系程度の大きさとなる。先に述べた明るさをエネルギーに換算すると,平均的な恒星状天体は毎秒1047ergのエネルギーを放出していることになる。そのエネルギー源が太陽のように熱核反応によるものとすれば,太陽の100億倍程度の質量を必要とする。天体の大きさを考えるとふつうの星ではありえない。現在もっとも有力なモデルとして考えられているのは,太陽の10億倍程度の質量の超大ブラックホールが恒星状天体の中心にあって,星またはガスがこのブラックホールに引き付けられるときに解放される重力エネルギーが,電磁波もしくは粒子の加速に変換されるというものである。近距離の恒星状天体の写真を見ると,その周囲にぼんやりと星雲状のものが認められることがある。最初に発見された3C48の場合,この星雲のスペクトルを本体から分離して検証することができ,表面温度1万K程度の星が多数存在することが判明した。このことは数千万年前に3C48で星が爆発的に誕生したこと,恒星状天体が活動的な銀河の中心核であることを意味する。
3C273をはじめとして,いくつかの恒星状天体では,中心核から,電波源が核の両側または一方に,見かけ上光速度より速い速度で移動する現象が観測されている。しかしこの超光速天体は,光速に近い,しかし光速よりは小さい速度で運動する天体が,中心核に対してある幾何学的配置にあると,見かけ上このようなことが見られると説明されている。
恒星状天体は1963年に最初に発見されてから,現在まで約1500個見つかっている。これを赤方偏移の値に従って区別すると,値の小さいもの(すなわちわれわれの近くのもの)から大きいもの(遠くのもの)に移行するに従って急に増え,赤方偏移2~2.4のあたりで最大になる。観測方法による選択の効果を考慮しても,遠い距離にあるもののほうが空間的にはるかに数が多いということである。赤方偏移2の時点で,すなわち約80億年前には恒星状天体の数は,最近の密度の1000倍であった。いいかえると初期の宇宙は現在の宇宙よりも,はるかに活動的であった。一方,赤方偏移が2.4をこえると恒星状天体の数は減少し,3.8より大きいものは見つかっていない。赤方偏移が3.5より大きい恒星状天体の空間密度は3のものに比べて約1/3以下である。このことはおよそ約140億年以前に突然恒星状天体が形成されだしたと考えるのが自然である。
79年に双子の恒星状天体0957+561A,Bが発見された。この2個の恒星状天体は天球上で角度で6秒しか離れていない。AはBより約25%明るいが,この明るさの比は光でも電波でも同じで,さらに分光器でスペクトルを観測したところ,両者とも輝線の赤方偏移1.405,吸収線の赤方偏移1.390が得られた。天球上AとBを結ぶ線上でBに近く,赤方偏移0.36の銀河が検出され,この銀河の重力レンズ作用によって,遠方の1個の恒星状天体が二つの像に分解されたと解釈される。
執筆者:寿岳 潤
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