日本大百科全書(ニッポニカ) 「細胞サイクル」の意味・わかりやすい解説
細胞サイクル
さいぼうさいくる
cell cycle
細胞が1回の分裂を経てから次の分裂までにおこる現象をまとめた呼び方で、細胞周期ともいう。かつては分裂期(M期)と間期とに区分し、分裂期をさらに前期、前中期、中期、後期、終期に分けていたが、近年DNA合成が間期のうち特定の時期におこることがわかり、次のように間期を3区分するようになった。すなわち、DNA合成以前の時期をG1期、合成期をS期、合成が完了してから分裂までの時期をG2期とよぶ。DNA合成のおこる時期は、DNAの前駆物質、とくにチミジンなどを放射性同位元素で標識し、それが核に入る時期をオートラジオグラフィー(写真乾板や乳剤を用い生体内物質の分布や移動などを化学的に調べる方法)などで検出することにより観測できる。また細胞サイクル全体の長さ、すなわち細胞の世代時間は、細菌、培養細胞、水生動物卵などでは直接細胞数が2倍になる時間から、また動植物組織中の細胞については放射能で標識された分裂像の比率の変化などから測定できる。細胞サイクルの長さは数十分から数十時間にわたる変化があり、種、組織、環境条件によっても大きく変動する。大部分の動植物細胞ではG1期が長いが、増殖の速い細菌や癌(がん)細胞では間期の大部分をS期が占めている。またウニの卵や粘菌の変形体のように、G1期がなく分裂が終わるとすぐにDNA合成が始まるものもまれにある。分裂を繰り返して分化した細胞のうちには細胞増殖をしないものもあり、肝臓の細胞のように細胞サイクルが一時的に停止した状態となったり、赤血球、小腸の上皮や神経細胞のように細胞サイクルから離脱して、それ以上分裂しなくなるものもある。
[大岡 宏]