経営計画(読み)けいえいけいかく(その他表記)management plan

翻訳|management plan

日本大百科全書(ニッポニカ) 「経営計画」の意味・わかりやすい解説

経営計画
けいえいけいかく
management plan

一般に経営目的を達成するための行動予定をさすが、広狭二義がある。広義には経営におけるすべての計画をいい、狭義には経営者機能に関係する全体的、長期的、基本的な計画のみをいう。計画の特性は、主体(だれが)、時間的限定(いつ)、具体的行動内容(何を)を特定化することにあり、この点については広狭いずれも同じである。広義の経営計画については次のような種類がある。第一は、総合計画と部門計画という区分である。経営管理は、まず経営と管理に分かれ、後者はさらに全般、中間、作業の3階層に分かれるが、この区分に対応して、経営計画(広義)は、経営計画(狭義)と管理計画に大別され、後者はさらに全般管理計画と部門管理計画に分けられる。以上のうち、経営計画(狭義)と全般管理計画は総合計画であり、部門管理計画は部門計画になる。部門計画は、職能別(生産計画、販売計画など)、組織単位別(X事業部計画、Y工場計画など)などの形で策定される。

 第二は、アメリカ会計学会の提言に始まる期間計画個別計画プロジェクト・プラン)の区分である。期間計画は、月、半年、1年、3年などの期間を枠組みにした行動予定であり、月次計画、年度計画のように、一般には部門計画とそれを集成した総合計画である。期間計画は、期間の長さにより長期計画と短期計画に二分したり、これに中期計画を加えて三分したりする。期間のくぎり方に絶対的な基準があるわけではないが、一般に長期は3~5年を、短期は1年以下を、中期は1~3年とするのが普通である。個別計画は、特定課題についての行動予定であり、代表例は設備投資計画である。個別計画について、計画の特性である時間的限定を欠いていると誤解してはならない。たとえば設備投資計画には、かならず開始時期と完成目標時期が明示されるように、あらゆる個別計画には時間的限定が必須(ひっす)である。ただ、その時間的限定は課題ごとに異なり、画一化されていない点が特色である。経営計画(狭義)の実体はほとんど個別計画である。

 以上のような区分が比較的伝統的なものであるのに対し、経営戦略を中心に経営管理を考える傾向に対応して近年用いられるようになった第三の区分は、計画内容によって戦略経営計画と業務執行計画に二分するものである。戦略経営計画は、戦略内容を計画化したものであり、新製品開発計画、多角化計画、撤退計画、合併計画などがその例になる。これらはすべて個別計画でもあり、したがってまた経営計画(狭義)の実体である。業務執行計画は、既定の戦略の執行の計画であり、日常業務の活動を通じて戦略を実現し、目的を達成するための資源の最効率的運用を目ざす行動予定である。したがって、業務執行計画は管理計画であり期間計画の形をとることが普通になる。予算はその典型である。

 今日の経営計画(広義)の中心は戦略経営計画にある。それは経営の基本的構造を左右する計画であるが、このような計画の適切性を阻害する条件として、経営環境の変動と不確実性がある。このような制約条件に対処するためには十分な情報と専門能力を備えた計画策定部門(企画部など)を設け、不測事態に備えた予備的計画を用意しておく必要がある。このような予備的計画を、コンティンジェンシー・プランcontingency plan、状況対応計画、不測事態対応計画、シャドー・プランshadow planなどという。

[森本三男]

『真船洋之助著『戦略的経営のための経営計画』(1992・税務経理協会)』

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改訂新版 世界大百科事典 「経営計画」の意味・わかりやすい解説

経営計画 (けいえいけいかく)
management planning

企業において,全社あるいはそれを構成する事業部や部門の目標・方針,行動計画,評価方法を意図的に意思決定すること。経営環境の変化が激しい今日においては,変化に対する迅速な対応と経営資源配分の適切さが要求され,戦略的で条件適応型の代替案をもった計画の策定が望まれる。経営計画の概念は1950年代のアメリカでおこり,コンピューターの活用と並行して発展してきたが,日本には同年代の後半に導入された。経済の高度成長期には,計画は現状延長型で比較的容易に予測ができ,部分計画の積上げで可能であった。70年代後半,低成長時代に入り,環境変化の多発と非連続性が予測を困難にし,条件適応型で経営戦略主導型の計画立案が企業の死命を制するに至った。80年代に入り熾烈(しれつ)な経営環境の変化は構造不況を生み,多くの企業倒産を生んだが,その後はエレクトロニクスバイオテクノロジーなどのハイテクノロジーによる技術革新が,経営に21世紀の新時代に向けて戦略的な行動をおこさせている。経営戦略の重点は新技術・新製品の開発,マーケティングによる市場競争,企業の国際化といったところにあり,経営計画を立案する際もこれらを中心とし,生産活動は生販一体体制やSBU(戦略的事業単位)のなかで,製品開発やマーケティングの一環として計画立案を行う傾向が強い。

 経営計画の種類は,予測の期間の上から長期計画,中期計画,短期計画と分けられる。企業の性格により異なるが,(1)長期計画は10年が通常であるが,変化への対応から5年としたり,長期的な事業構想を策定し,20年とする企業もある。(2)中期計画は3年とするところが多い。(3)短期計画は1年の年度目標で,これが目標管理として個人目標にまでブレーク・ダウンされている企業も多くみられる。これらの計画は,変化への対応とフォローアップの必要から,定期的に評価と見直し,修正が行われなければならない。経営計画は,全社的な総合計画と部分的な事業部計画,各部門の計画と大別できるが,部門計画の販売計画や購買計画などは機能計画としてもとらえられる。企業の国際化が直接投資やプラント,エンジニアリングなどの形態で進展するなど,プロジェクトの規模の拡大によって個別プロジェクト計画が重要となり,そのための資本・金融,物資,人材の調達計画や利益計画の綿密さが要求されている。経営計画のなかで総合計画,長期計画,戦略計画はトップ・マネジメント(〈経営者〉の項参照)の職能であり,それを補佐する専門スタッフ部門として社長室あるいは総合企画室などと呼ばれる部門が設けられている。しかし現在の経営環境は変化の多様性,細分化された専門性といった複雑な状況のもとで,より確実性の高い計画の立案が求められており,トップに隣接した専門スタッフ以外に各事業部,部門,プロジェクトでの専門スタッフやライン管理職の企画力の充実が必要となってきている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「経営計画」の意味・わかりやすい解説

経営計画
けいえいけいかく
corporate planning; business planning

企業が将来の経営活動について意思決定を行い,その行動予定を具体的に表現すること。企業が環境の変化に対応してその行動を合理的に変化させてゆくためには,計画とその実行が必要である。 (1) 計画の過程は意思決定の過程ともいうことができ,(a) 明確な目的の設定,(b) 企業内外に関する情報の収集と将来の予測,(c) アイディアと案 (代替案) の設定,(d) 案の評価と総合調整,(e) 審議,決定,(f) 実績の検討と計画の改訂という過程を経て意思決定が行われる。 (2) また経営計画は種々の観点からさまざまに分類される。 (a) 対外戦略の計画,構造計画,活動計画 (計画の対象から) ,(b) 革新の計画,改良の計画,維持の計画 (変化の度合いから) ,(c) 一般的な目標,方針と具体的な計画 (具体性から) ,(d) プロジェクト計画と機能別計画,(e) 部分計画と総合計画,(f) 長期計画と短期計画,(g) 利益 (損益) 計画と資金計画など。なおほとんどの計画は金額に換算できる部分が多いから,予算は最も典型的な経営計画の表示法である。

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