経営者とは経営する人の意味であるが,日本で経営者といった場合,通常は企業(私企業,公企業)において経営を行う人をさし,それ以外の組織において経営を担当している人をさすことは少ない。この点では,managementとかmanagerという言葉が企業以外の組織の場合にも使われるのに比べ,狭い意味に使われる。もっとも今日では日本でも,学校経営者とか病院経営者などの呼称は,かなり一般に使われるようになってきている。ともあれ経営者という言葉が,企業の経営者に最も結びついて使用され,また理解されていることは,各国とも同じである。
もともと古典的企業では,企業規模も小さく,資本を出す人は同時にその運用という点で広義の経営に携わっていた。このことは,今日でも中小規模の個人企業においては同じである。このような資本家を通常,企業家あるいは機能資本家と呼ぶ。個人企業でなくても合名会社の場合は,全員出資者であると同時に経営者であるから,全員企業家ということができる。合資会社の場合には,出資はするが経営には参加しない有限責任の資本家=無機能資本家が登場するようになり,自分たちが拠出し出資額を含めて資本利用に関するいっさいの判断は企業家にゆだねられる。こういった関係は,有限会社さらに近代株式会社においていっそう顕著となる。とくに近代株式会社では,資本市場-証券市場を通してきわめて多数の出資者が資本参加をするが,彼らの大多数は単なる投資株主,投機株主として企業の経営に当初から参加する意思も,ときには能力ももっていない。また仮に能力があっても,多くの株主がいっせいに経営に参画すれば意見一致に至るまで莫大な時間と費用がかかる。したがって近代株式会社では,取締役(会)に会社財産の運用を軸とした企業の経営一般を包括的に委任しているのである。
ところで取締役には,当該企業の株式を大量に保有することを一つの有力な基盤として取締役に選任されている大株主取締役あるいは株主代表の取締役がいる。彼らは企業家ということができる。しかし今日の取締役のなかには,当該企業の株式については取るに足りない保有率にもかかわらず,経営に関する知識や経験に基づいて選任されている人々がむしろ相対多数である。1945年現在のアメリカの最大500社取締役2625人の選任理由調査によれば,重要株主229人,重要株主代表330人に対し,経営に関する知識672人,業務執行上の健全な判断力519人となっていて,専門経営者がはるかに多い。また日本の企業についても,筆者などの調査によれば,60年段階で主要株主5.7%,株主代表3.7%に対し,事業に関する全般的知識37.4%,技術に関する専門的知識16.0%,業務上・執行上の判断力11.4%,販売に関する専門知識8.5%などとなっている(《わが国企業における経営意思決定の実態I》)。
ここには明らかに〈所有と経営の分離〉,専門経営者の台頭という姿がみられる。近代株式会社は,もともと広く資本を社会から調達して成長しようとするところに特質の一つがあるから,大規模になればなるほど株式特有の分散現象が進行しても,少数の大株主はその発言権を確保することが可能であると考えられていた。また企業の量的拡大と質的変化が急速に進むなかで,漸次,経営・管理機能を管理者・経営者にゆだねていくことは不可避としても,彼らはあくまでも資本家ないし企業家に雇用されたsalaried executiveであり,基本的には資本家の代理人でしかないとみなされていた。しかしA.A.バーリとG.C.ミーンズの調査《近代株式会社と私有財産》(1932)以来,巨大株式会社においておこっている事態は,すでに上述の事態をはるかに超えていることを示している。そしてそれは,単に株式分散の進行,資本家の株式保有率の急減と発言力の低下といった株式保有面からの形式的側面以上に,現代企業における経営管理の質的高度化がいっそう資本家の後退,専門経営者層の台頭を呼びおこしていることを意味している。労働組合組織の組織力の拡大と交渉力の増大,消費者運動の台頭とその組織化,地域住民の諸要求の増大とその組織化,政府・地方行政体の影響力の拡大,従業員の多様化(ブルーカラーとホワイトカラー,単純労働者と熟練労働者,スタッフとラインの管理補助者など)とその企業に対する要求の多様化,技術変化のテンポの加速と不確実性の増大,企業間競争の多様化(価格競争と並ぶ非価格競争の増大)と企業間協調行動の拡大(管理価格の浸透と各種の暗黙ないし明示的協調行為の実施),政治領域と経済領域との相互作用の活発化,国際市場の重要性と多国籍的企業行動展開の必要等々,経営・管理機能の量的拡大と質的高度化を要求する諸条件をあげれば,枚挙にいとまがないほどである。したがって,資本を保有することが当然に経営・管理技能を保証していない以上,経営・管理技能を企業における長期の経験を通して身につけた経営者・管理者が,経営・管理の全面を実質的に掌握するようになるのは論理的に必然なのである。こうして各国とも管理担当者は,絶対的にも相対的にも増大してきた。
経営・管理機能の担い手としての経営者・管理者という階層は,前記の状況が形成されるにつれて着実につくりあげられ,今日に至っている。このためもあってか,経営者がどこで識別されるべきか,明確で統一的な基準はない。通常,経営者の出身母体は管理者であり,また管理者の出身階層は一般従業員である。したがってその階層的区別は,担当機能の相対的違いに基づいて,若干あいまいな内容を含みつつ行われている。あえていえば,最高管理機能を担当する最高管理層(トップ・マネジメントtop management)が経営者(層)部門であり,中間管理を担当する中間管理層(ミドル・マネジメントmiddle management)と課以下の現場管理を担当する下部(下級)管理層(ロワー・マネジメントlower management)が管理者(層)といえよう。この場合,最高管理の具体的内容は,ごく一般的にいえば,株主,消費者,労働組合,政府,行政組織,金融機関など,いわゆる企業の利害者集団との関係についての基本的な考え方を決定すること,企業規模との関連において企業の長期的存続を可能にするような戦略的決定を行うこと,各部門間の利害,意見対立を調整・裁定し企業の総合的な力を維持・発展させること,がそのおもなものであるといえよう。
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執筆者:岡本 康雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
企業の経営について最高の意思を決定し、経営活動の全体的遂行を指揮・監督する人または機関をいう。その意思決定は、臨時的決定、経常的決定、評価的決定に三分される。臨時的決定は、企業の設立、改組、合併、解散などの基本的存立に関する組成的決定と、取締役、監査役、その他重要役職者の任免に関する最高人事決定である。経常的決定は、経営理念と経営目標を定める経営目的の決定、事業分野・製品市場ミックス・経営行動の基本様式に関する経営戦略の決定、資源の調達と配合、とくに投資と基本組織を定める経営構造の決定、長期経営計画の決定などからなる。評価的決定は、経営業績の確定、評価、開示と経営成果の分配に関する決定である。
経営者は優れて機能的概念であり、前記のような諸決定を現実に担当し遂行している人または機関が経営者である。高い役職についている人でも、諸決定に現実に関与していない場合には、経営者ではない。しかし一般に、企業にはこれら諸決定を担当し遂行することを予定され、期待されている役職ないし機関が存在し、通常それを経営者とよんでいる。現代の代表的企業形態である株式会社では、臨時的決定と評価的決定は株主総会に、経常的決定は取締役会によって分担されているから、形式的にはこれら両機関が経営者機関といえる。しかし実際には、所有と経営の分離(資本と経営の分離)により、会長や社長を中心とする役付取締役(副社長、専務、常務)が前記諸決定のすべてを左右しており、これらの人々が現実の経営者であるといえる。企業の発展段階が低い状態では、出資者がそのまま経営者になる所有経営者owner managerが普通であった。このように、出資者であって同時に経営者でもある人をとくに企業者という。所有経営者はまた、世襲経営者であることも少なくない。ところが、大規模化などによる企業の高度化は、一方で、出資者の多数化による所有の分散と出資者の投資家化を生み出し、他方で、複雑巨大化した生産組織の有効な稼働に必要な特殊な専門的能力と経験を必要とするに至った。かくて、従来の世襲経営者はもとより所有経営者の時代は去って、専門経営者professional managerの時代が到来する。専門経営者とは、経営に関する能力と経験を第一条件として選任される経営者をいう。アメリカでは、経営者の中心となる最高経営責任者(CEO chief executive officer)を公表する慣行がある。
[森本三男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…それが職能別部門組織の確立によって,第1次大戦ころまでに多くの企業が真の企業結合体になったのである。
[集権的機構と管理方式・管理技術]
本社機構を核とする最高経営者層(トップ・マネジメント)は,各部門活動を調整,評価し,市場の動きと部門活動とを調整し,さらに企業全体の政策を決定する。最高経営者層は,長期的予測・判断に基づく企業資源の部門間配分と短期的変動に対応した企業資源の有効利用とについての意思決定を行った。…
※「経営者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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