経営戦略(読み)けいえいせんりゃく

改訂新版 世界大百科事典 「経営戦略」の意味・わかりやすい解説

経営戦略 (けいえいせんりゃく)

経営方針〉〈経営戦略〉の用語意義は互いに重複しており,実際上も混同して使用されることが多い。あえて分ければ,経営方針は経営の基本目標を示したものといえ,経営戦略は,この基本目標を実現するため,いかなる事業活動を行うかについての指標といえる。いわば両者は目的と手段の関係にあり,抽象度の相違はあるものの,どちらも企業が向かうべき方向,達成水準を示すものである。近年,経営戦略という用語が頻繁に用いられるが,これは,技術革新などによって企業環境の変化が激しくなり,新製品開発や多角化による対応を企業が迫られているからであり,企業努力が分散しないように事業が何なのかをできるかぎり正確に規定することが要求されているからである。I.アンゾフは経営戦略の決定基準として,(1)特定の製品市場分野,(2)成長ベクトル,(3)競争上の利点,(4)相乗効果,(5)成長方式(内部開発か合併買収によるか),の五つをあげている。

 経営の戦略的意思決定は,企業をその外部環境に適応させるためのものであり,工場の拡張投資,経営多角化,流通経路改革などの意思決定が代表的なものである。とくに近年はマーケティング戦略(販売戦略)の重要性が一段と増している。自由経済のもとで生産方式の近代化が進むにつれて,しかも最近の低成長と相まって,企業はつねに過当競争の危険性を有している。そのため各企業は生産中心主義から脱皮してシェアの維持・拡大に全力を注ぐようになった。マーケティング戦略は,マーケティング目標を達成するために,自社として標的とすべき市場セグメント(部分)を明確にし,そこに参入して,対象とする顧客グループの満足をかちとるために,望ましいマーケティング・ミックス(マーケティング意思決定者にとっての操作可能な諸手段)を構築することである。通常は,(1)環境の分析,(2)標的市場の決定,(3)マーケティング・ミックスの開発,の三つのプロセスによって,マーケティング戦略は構成されている。マーケティング・ミックスの構成要素は4P,つまり(1)Product(製品政策),(2)Place(経路政策),(3)Promotion(販売促進政策),(4)Price(価格政策)が代表的であり,これらは企業にとって操作可能な要因であるという意味で重要である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「経営戦略」の意味・わかりやすい解説

経営戦略
けいえいせんりゃく
corporate strategy

経営目標を達成するための手段選択の枠組みをいう。経営戦略は、経営目標と経営計画の中間に位置し、計画の策定と実施が目標実現に有効に機能するよう媒介する。企業活動について経営戦略の必要が意識的に主張され、その体系化が図られるようになったのは、1950年代に入ってからのことである。それまでは、経営目標―経営計画という体系が主であったが、環境の流動・多様化により、目標をただちに計画に展開することがしだいに困難になってきた。そのため、経営目標―経営方針(経営政策)―経営計画という体系が現れたが、経営方針の概念内容のあいまいさもあって定着せず、短期間に構想が新しく改められて、経営目標―経営戦略―経営計画という体系が出現した。

 経営戦略は普通、階層的に企業戦略corporate strategy、事業戦略business strategy、機能戦略functional strategyの3種からなるとされる。経営戦略を狭義に解するときは、企業戦略のみをもって経営戦略とするが、初期にはこのような考え方が主であった。企業戦略は、企業全体に関する戦略であり、具体的には、事業分野の選択と組合せが中心になる製品・市場戦略や多角化戦略である。事業分野や製品には、ライフ・サイクルによる盛衰がかならず生じるから、特定の事業分野や製品に永久に固執することはできない。また、技術革新などの環境変化も重大な影響を及ぼす。これらを勘案しながら、製品開発、新製品採択、既存製品の改良、既存製品の生産中止、既存市場への浸透、新事業分野への参入、既存事業分野からの撤退などを組み合わせた企業活動の長期的枠組みを作成する。これが企業戦略である。企業戦略は、上述のような内容とともに、それを展開するための、他企業の統合・合併、あるいは自企業の分割・再編のような基本方法をも含んでいる。事業戦略は、企業戦略によって設定された各事業分野ごとに設定される戦略である。ここでは、企業戦略で各事業分野ごとに策定された内容の展開に関する資源配分とタイミングが問題にされる。これを受けて、生産・販売・財務・労務などの各領域に関する機能戦略が策定される。

 経営戦略を策定する際の要点は、長期的に企業をどの方向にもっていこうとするのかという成長ベクトルを明らかにすることと、シナジー(諸資源の組合せの総合効果)を追求することである。

[森本三男]

『H・I・アンゾフ著、中村元一・黒田哲彦訳『最新・戦略経営』(1990・産能大学出版部)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「経営戦略」の意味・わかりやすい解説

経営戦略
けいえいせんりゃく
management strategy

企業が競争的環境のなかで生抜いていくために立てる基本的な方針。もともとは軍隊用語であるが,経営史家の A.D.チャンドラーらが経営の分野に導入した。一つの企業が有する経営資源は有限であり,あらゆる分野に投入することは不可能であるため,経営戦略に従って選択的に配分する必要がある。事業構造の組立てに関する全社的な戦略と個々の事業の競争力を高める事業戦略などにレベルを分けることができる。また具体的な戦略としては,複数の事業分野に進出して経営資源の有効活用とリスクの分散をはかる多角化戦略,広い販売市場などを求めて他国に事業展開する国際化戦略,既存市場のすきまにある未開拓の市場へ進出するすきま戦略 (→ニッチ産業 ) などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の経営戦略の言及

【経営・経営管理】より

…後者については,なかなか適切な方法はなく,経営者,管理者の判断力・直観力や,試行錯誤に依存する等の方法にとって代わる合理的なものは生まれていないが,人間の思考過程をコンピューター・シミュレーション・モデルに模型化し,多少とも高度に複雑な意思決定に解析的に接近しようとするヒューリスティックな問題解決ないし全般的問題解決プログラムが形成されつつある。
【意思決定の構造と経営戦略】
 非定型的意思決定は,今までの用語法でいえば管理というよりも経営といったレベルの意思決定を指すことになる。こうしてみると,組織,とりわけ企業組織は,若干その性格を異にする以下のような3層からなる意思決定構造をもっている,ともいうことができる。…

※「経営戦略」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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