日本大百科全書(ニッポニカ) 「マーケティング」の意味・わかりやすい解説
マーケティング
まーけてぃんぐ
marketing
企業が製品またはサービスを顧客に向けて流通させることに関係した一連の体系的市場志向活動のこと。売買そのものをさす販売よりもはるかに広い内容をもち、販売はマーケティングの一部を構成するにすぎない。マーケティングの内容を機能的に分解すると、戦略政策問題、製品問題、市場・取引問題、販売問題、販売促進問題に大別される。
戦略政策問題とは、自己の活動範囲をいかなる事業・製品・サービスに求めるか、またそれらについてどのように競争するか、について決定することである。前者は企業戦略、後者は競争戦略の問題である。前者では専業化か多角化か、多角化するとすればどの範囲かなどが、後者では価格競争か非価格競争かなどのさまざまな競争戦略が検討される。これらの諸決定を踏まえて、製品問題が展開される。その中心はプロダクト・プランニング(製品計画)である。それは、企業戦略で決定した製品(例、自動車)について、顧客の求める内容を具体的に掌握し、その欲求を満足させる製品(例、車種・型式)を実現する計画をいう。その内容は新製品開発計画と既存製品廃棄計画とからなる。新製品開発は、新製品の創出、既存製品の改良、既存製品の新用途開発の三つの内容からなるが、創出・改良については、機能・品質・形状のみでなく、意匠(デザイン)や包装の問題をも含む点が重要である。製品にはすべてライフ・サイクル(寿命)があるから、それに順応して生産を中止(廃棄)しなければならない状態が避けられず、製品によっては、計画的・意図的に廃棄(計画的陳腐化)して新製品へ移行させる、などが廃棄計画の主内容になる。その際、顧客が使用中の現製品に対するアフター・サービス(例、部品補給)を閑却してはならない。
市場・取引問題は、市場調査、需要予測、流通経路の設定、価格政策、商品の物流、競争戦術などである。これらのいくつかは戦略政策問題の前提になり、残りのものは戦略政策問題からの展開として販売計画に集約される。販売計画は、期間の長短により長期販売計画と短期販売計画に大別される。前者は販売活動の長期的展望として、販売部門の指針になる。後者はさらに一般計画と個別計画に分かれる。一般計画は一営業期間の販売計画であり、地域別・製品別・販売店別などの販売割当てや、販売の方針、実施細目が盛り込まれる。個別計画には、新製品発売計画、新市場進出計画、販売促進計画、市場占有率拡大計画、特別販売(創立○周年など)計画などがある。
販売問題は、販売活動の管理であるが、最狭義の販売管理は販売員管理をいう。これは、販売計画や販売予算を販売員に割り当て、必要な指示や激励を与えて目標の達成を刺激し、実績を掌握して賞罰を与え、計画と実績の差異について原因を分析するとともに差異を是正するために必要な措置をとることをいう。しかし、販売員を督励するだけでは十分でない。販売員の不断の教育訓練の積み重ねが基礎的前提条件である。販売管理では、販売員管理を通じた販売活動の遂行のほか、多くの課題がある。そのおもなものは、販売情報の収集・処理・伝達(売れ筋情報の活用、市場の声の新製品開発へのフィードバックなど)、取扱い製品に適合した流通経路の選択、販売方法(現金販売か割賦販売か、直接販売か委託販売か、店頭販売か通信販売かなど)の検討、顧客の苦情処理などである。このような販売管理と一体の形で販売の効果を左右するものが、販売促進である。
販売促進は、最終顧客の購買意欲の喚起および中間流通業者の販売動機の刺激を行うことを目的とした活動の全体である。具体的には、広告宣伝をはじめ、見本市、展示会、実演、消費者教育ないしその組織化、プレミアム販売のような最終顧客向けのものと、各種のディーラー・ヘルプス(販売店への資金援助、経営上の助言、従業員教育など)、販売刺激の供与(リベート支払い、プレミアム供与など)のような販売店向けのものとがある。
以上のようなマーケティングの内容づけは、マネジリアル・マーケティングmanagerial marketingとよばれ、企業の環境適応行動の一環にするという認識を基本にしている。このような認識は、1930年代以降徐々に成立し、50年代になって本格的に体系化されるようになった。近年、環境への配慮をマーケティング全般に注入する必要が高まっている。このような新しい展開を、とくにグリーン・マーケティングとよぶ。
[森本三男]