線維肉腫(読み)せんいにくしゅ(英語表記)Fibrosarcoma

六訂版 家庭医学大全科 「線維肉腫」の解説

線維肉腫
せんいにくしゅ
Fibrosarcoma
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 顕微鏡で観察すると紡錘形(ぼうすいけい)で、コラーゲンを産生する線維()細胞と呼ばれる細胞が悪性化したと考えられている肉腫です。成人に発生するものを成人型と、乳幼児に発生するものを乳幼児型として区別します。これは、顕微鏡で同じように見えても、乳幼児に発生するもののほうが、より治療成績がよいからです。

 乳幼児型は乳幼児期に発生するすべての悪性腫瘍の約10%を占めますが、成人型は成人の肉腫のなかで約1~3%程度のまれな腫瘍です。

原因は何か

 乳幼児型の多くで、特定の染色体(第12番と第15番)の一部が互いに入れ替わった配置異常が確認されています。その結果、細胞の機能を調節する蛋白質に異常がみられることが発症に関係していると考えられています。

 成人型では、より複雑な遺伝子の異常が発症に関与していると考えられていますが、詳細はわかっていません。

症状の現れ方

 手足胸部腹部頭部(けい)部(首)などに急に成長する(こぶ)として自覚されます。通常は痛みを伴いません。

 乳幼児型は生下時にみられることもあり、大部分症例が生後1年以内に発症します。一方、成人型の多くは中年期以降の発症が多いようです。

検査と診断

 MRIなどの画像検査で詳しく病気の広がりを確認しますが、最終的には顕微鏡で実際に腫瘍組織を検査することで確定診断をつけます。

治療の方法

 抗がん薬や放射線はあまり効果がありません。周囲の組織と腫瘍をひとかたまりに切除する広範切除術という手術法での切除を行います。

 成人例では約半数に肺や骨などへの転移がみられ、5年累積生存率は50%前後です。乳幼児型の死亡率は25%以下です。

病気に気づいたらどうする

 がんセンターや大学病院を受診してください。

森井 健司

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「線維肉腫」の解説

せんいにくしゅ【線維肉腫 Fibrosarcoma】

[どんな病気か]
 線維肉腫は、骨の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)(がん)の1つですが、発生数は少なくて、骨肉腫(こつにくしゅ)の約4%くらいです。
 この病気が発生しやすい年齢は、10~40歳で、30歳代にもっとも多くみられます。
 発生しやすい部位は大腿骨(だいたいこつ)(ももの太い骨)、脛骨けいこつ)(すねの太い骨)、腓骨(ひこつ)(すねの細い骨)などの長管骨(ちょうかんこつ)(長くて大きな筒状の骨)のほか、骨盤(こつばん)や肩甲骨(けんこうこつ)などの扁平骨(へんぺいこつ)にも発生します。
[症状]
 主要な症状は痛みで、ごくまれに、病的骨折をおこして発見されることもあります。
[検査と診断]
 診断は、X線像、CT、MRIなどの画像検査と、腫瘍の一部をとって組織の変化を顕微鏡で調べる生検(せいけん)(病理組織学的検査)で行なわれます。
[治療]
 生検によって、腫瘍細胞のタイプがわかり、それによって転移しやすいかどうかなど、悪性の程度がわかりますので、悪性度が低ければ、腫瘍部分の切除と、それによっておこる骨の欠損に対する再建術が、おもな治療法となります。
 悪性度が高い腫瘍では、抗がん剤の使用などによる補助化学療法が必要となります。
 日本整形外科学会がまとめた記録によると、線維肉腫の手術後の5年生存率は49%です。治療を始めた時点で転移がない例では、5年生存率は60%となっています。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「線維肉腫」の意味・わかりやすい解説

線維肉腫
せんいにくしゅ
fibrosarcoma

肉腫というのは本来,未熟な非上皮性の悪性腫瘍をいうが,未熟な細胞のみから成っている部分のほかに,いくぶんは分化した部分があって,発生母細胞の組織の性状を明らかにできるものがある。線維肉腫はその一つであり,線維芽細胞の性状がはっきりしている。単純肉腫の紡錘型細胞肉腫と,良性の結合組織腫瘍の中間に位置するような構造と性状をもっている。また線維肉腫は本来,線維をつくる細胞であるから,成熟した腫瘍では細胞間に膠原線維が出現することがあり,組織中には線維が豊富である。線維肉腫の発生部位は皮膚,皮下結合組織,骨膜,筋膜,腱など。

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