繁昌記(読み)はんじょうき

改訂新版 世界大百科事典 「繁昌記」の意味・わかりやすい解説

繁昌記 (はんじょうき)

幕末から明治初年にかけて流行した漢文戯作の一ジャンル。中国の遊里風俗を描いた《画舫録》《板橋(はんきよう)雑記》などの艶史類,および市河寛斎の《北里歌(ほくりか)》(1786)などの漢詩による風俗誌ともいうべき竹枝(ちくし)類の影響のもとに,都市のさまざまな局面をスケッチした漢文体の戯作で,ふつう,京都の名所案内記として歓迎された中島棕隠(そういん)の《鴨東(おうとう)四時雑詞》120首本(1826)が先駆的な作品と考えられているが,〈繁昌記物〉と呼ばれるジャンルを確立したのは,江戸の浪人儒者寺門静軒(てらかどせいけん)の《江戸繁昌記》(1832-36)である。諧謔風刺をぞんぶんに交えたスタイル,報告ふうな背景と逸話ふうな市井の人物描写を組み合わせるかたちで都市の多様な風景を切りとるパノラマ的な構成とを打ちだした《江戸繁昌記》は,その後にあらわれる〈繁昌記物〉の形式を決定した。《江戸繁昌記》に触発された類作には,棕隠の《都繁昌記》(1837),田中金峰の《大坂繁昌詩》(1862)があるが,その系譜を正統にうけついだものとしては,成島柳北の《柳橋(りゆうきよう)新誌》をあげるべきだろう。幕末から維新期にかけての花街風俗の変遷を活写したこの《柳橋新誌》を中継点として,〈繁昌記物〉は,服部撫松(はつとりぶしよう)の傑作東京新繁昌記》(1874-76)が出るに及んで最盛期を迎えることになった。それらの作品はいずれも,文明開化の粧いをこらした都市の風俗を,古風な漢文体で描いたところから生まれる滑稽感に特色がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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