肝血管筋脂肪腫

内科学 第10版 「肝血管筋脂肪腫」の解説

肝血管筋脂肪腫(肝原発性良性腫瘍)

(4)肝血管筋脂肪腫(angiomyolipoma)
定義・概念
 肝血管筋脂肪腫は脂肪,血管,平滑筋の3成分よりなる良性腫瘍である.血管成分があればhypervascularで,脂肪成分があれば単純CTで低信号,超音波で高エコーとなる.典型例ではT1強調像で高信号,T1強調のopposed phase(逆位相)で低信号を呈する.しかし,脂肪成分が少ない場合は診断はやや困難である.生検標本のHMB-45染色は特異的で確定診断の根拠となる.
定義・概念
 転移性肝癌とは他臓器の癌が血行性,リンパ行性あるいは浸潤性に肝に転移した病巣をいう.直接性浸潤による癌の転移は胆道系の癌に多い.臓器別には門脈支配領域の消化器癌に圧倒的に多い.転移性肝癌は境界明瞭な白色ないし乳黄白色の結節を形成し,巨大になると一般に肝容積は増大する.結節の中心部はしばしば壊死をきたすことが多い.
臨床症状
 肝腫大,患部圧痛,黄疸発熱,全身倦怠などが進行した場合にはみられる.もちろん腫瘍が小さいときには無症状である.
検査成績
 原発巣の検査所見以外にALP値,LDH値の上昇,AST,ALT値の上昇がみられる.腺癌の転移ではCEAやCA19-9が異常高値を示す.
診断
 一般的に腫瘍径が小さい時点においても多発性のことが多い.
 画像診断のポイントとしては転移性肝癌を疑った場合には,EOB-MRIもしくはソナゾイドによる造影エコーを施行し,診断困難例については肝生検にて確定診断を行うことである.
 特徴的超音波所見として,①幅広い辺縁低エコー帯(bull’s eye signもしくはtarget sign)を示し,中心部高エコーを示す像で中心部は壊死を示す,②中心無エコー:腫瘤の中心部に不整形の無エコー部を認める.腫瘍中心部の融解壊死を示す,③後方音響陰影:大腸癌などを原発とした腫瘍では腫瘍内に石灰化を伴い,音響陰影を伴った高エコーとして描出される.
 ソナゾイドを静注する造影エコー法の10分以後では安定したKupffer相のイメージが得られ,多数の造影欠損を静注10分後のKupffer相で検出することができる.検出感度はEOB-MRIとほぼ同等であるとされている.
 ダイナミックCTで多くの腫瘍は辺縁部のみが濃染する(リング状濃染)像を示す.後期には低濃度領域となる場合が多い.中心部は壊死を示すことが多いため,早期,後期ともに乏血性領域となる.腎癌膵臓の悪性島細胞腫など血管に富む腫瘍の転移病巣では肝細胞癌類似の多血性腫瘍を呈する. 一般に腫瘍はMRI T1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号として描出され,特異的な所見はない.また,転移性肝癌ではしばしば腫瘍中心部に融解壊死をきたすことがある.EOB-MRIの肝細胞相では腫瘍の信号が低下するために小さな転移病巣もきわめて良好に描出され病期分類に有用である.
結果・予後
 根治的切除やラジオ波治療が奏効した場合あるいは動注化学療法が奏効すれば予後が良好である.ただし,予後決定因子は肝外転移の進展による悪液質のことが多い.
鑑別診断
 腎癌や悪性膵島細胞腫の転移は肝細胞癌との鑑別が困難であることがある.リング状濃染を示す転移性腫瘍は肝内胆管癌との鑑別が必要である.
治療
 原発巣が根治的な治療を受けた後,もしくは根治的治療を期待しうる症例で腫瘍が限局している場合にはたとえ多発性であっても外科的な切除が第一選択である.基本的には非癌部肝組織は正常肝であることが多いので広範な切除が可能である.切除が適応とならない場合で腫瘍径,腫瘍個数が限局している(3 cm以下,3個以内程度)場合にはラジオ波焼灼療法も試みられている.大腸癌などの場合には同時性異時性を問わず切除をすることにより,予後は確実に延長する.切除が困難な場合には大腸癌などに対しては,動注リザーバー留置による動注化学療法がきわめて効果的である.肝以外の遠隔転移を伴う場合には全身化学療法が基本である. 切除不能大腸癌では,全身化学療法(FOLFOX,FOLFIRI)で高い治療効果と延命効果が示されているため,積極的に治療すべきである.[工藤正俊]
■文献
Kojiro M, Wanless IR, et al: The International Consensus Group for Hepatocellular Neoplasia:Pathologic diagnosis of early hepatocellular carcinoma: a report of the international consensus group for hepatocellular neoplasia. Hepatology, 49: 658-664, 2009.
Makuuchi M, Kokudo N, et al: Development of evidence-based clinical guidelines for the diagnosis and treatment of hepatocellular carcinoma in Japan. Hepatol Res, 38: 37-51, 2008.
Kudo M, Izumi N, et al: Management of hepatocellular carcinoma in Japan: Consensus-Based Clinical Practice Guidelines proposed by the Japan Society of Hepatology (JSH) 2010 updated version. Digest Dis, 29: 339-364, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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