肥厚性硬膜炎

内科学 第10版 「肥厚性硬膜炎」の解説

肥厚性硬膜炎(急性散在性脳脊髄炎)

(8)肥厚性硬膜炎(hypertrophic pachymeningitis)
概念
 硬膜の一部あるいは広範囲な炎症性肥厚によって,頭痛や多発性脳神経障害などをきたす疾患である.
病因・疫学
 梅毒,結核,その他の細菌,真菌,ウイルスなどによる感染症,サルコイドーシス,多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)などの抗好中球細胞質抗体関連疾患,多巣性線維性硬化症,関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,混合性結合組織病,神経Behçet病などの自己免疫疾患,悪性リンパ腫悪性腫瘍転移などの腫瘍性疾患に関連して発症するもの,原因不明の特発性のものがある.
臨床症状
 頭痛は90%以上の症例にみられ,典型例では持続する慢性頭痛である.脳神経障害(特にⅡ,Ⅴ,Ⅵ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅻ),痙攣,運動失調,うっ血乳頭などが数カ月から数年の経過で進行する.脊椎部の肥厚性硬膜炎では神経根症状,脊髄症状が出現する.続発性の場合は基礎疾患による特有の症状が加わる.
病態生理
 肥厚した硬膜による神経への直接圧迫,神経周膜への炎症細胞浸潤,髄膜刺激,水頭症,静脈洞の狭窄脳圧亢進により症状が出現すると考えられている.
検査成績
 血液での炎症所見として,白血球増加,赤沈亢進,CRP陽性,免疫グロブリン増加などがみられる.続発性の場合は基礎疾患に特徴的な好中球細胞質抗体などの自己抗体が陽性になる.一部の肥厚性硬膜炎は,多巣性線維性硬化症の部分症状で,IgG4増加がみられることがある.髄液では圧の上昇,蛋白増加,細胞増加をみることが多い.MRIでは肥厚した硬膜がT2強調画像で通常高信号であるが,線維成分の増加につれて低信号となり,ガドリニウムで明瞭に造影される.造影パターンは結節状,線状いずれもある.肥厚部位は小脳テント,大脳鎌後半部,頭蓋底などが多い.特発性の肥厚硬膜の生検では,膠原線維の増生,リンパ球,形質細胞の浸潤,ときに肉芽腫を形成するものがある.感染性では起炎菌が検出されることがある.
診断
 頭痛と原因不明の多発性脳神経障害を認めた場合,本症を疑う.ガドリニウム造影MRIで硬膜の肥厚をとらえることが重要である.感染性や腫瘍性の硬膜炎が除外できない場合,硬膜の生検を行う.続発性のものは原疾患の診断が重要であり,各種の疾患特異性の自己抗体の検出が役立つ.髄液減少症は硬膜のMRI所見が似ているが,小脳扁桃の下垂が多いこと,起立性頭痛であることが特徴的である.
治療
 自己免疫性や特発性ではステロイドパルス療法やステロイド大量療法が有効であるが,減量によりしばしば再発する.シクロホスファミド,アザチオプリンなどの免疫抑制薬が奏効する例がある.[犬塚 貴]
■文献
河内 泉,西澤正豊:肥厚性硬膜炎.日内会誌,99: 1821-1829, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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