肺性脳症

内科学 第10版 「肺性脳症」の解説

肺性脳症(心・肺疾患に伴う神経系障害)

(5)肺性脳症(pulmonary encephalopathy)
 肺の機能異常に基づいて中枢神経症状を呈する病態を肺性脳症といい,高二酸化炭素血症(hypercapnia)によるCO2ナルコーシス(CO2 narcosis)と低酸素脳症(hypoxic encephalopathy)がある.呼吸不全による低酸素血症とCO2ナルコーシスは,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)の末期あるいは感染合併時に多い.また筋萎縮性側索硬化症,重症筋無力症などの神経筋疾患に伴う呼吸筋麻痺でも低酸素脳症とCO2ナルコーシスをきたす.高濃度酸素吸入,呼吸器感染,うっ血性心不全,鎮静薬による呼吸抑制などが誘因となる.高濃度のCO2には麻酔作用があり,呼吸抑制作用がある.高二酸化炭素血症によって,脳血管が拡張し,血圧が上昇する.急なCO2上昇は脳組織にアシドーシスをきたし,神経症状を発現するとされる.PaCO2 50~60 Torr以上では頭痛,筋痙攣,振戦が出現し,急激に80 Torr以上に上昇すると意識レベルが低下し,見当識障害,昏迷がみられ,自発呼吸がさらに減弱する.
 脳の酸素需要量は全身の20%以上にも及び,脳は酸素欠乏で他臓器より障害を受けやすく,直接神経細胞が障害される.動脈血のO2低下は脳血管を拡張させ,血流量の増加に働くが,実際の動脈血のO2低下はそれを上まわり,脳への酸素不足を代償できなくなり,低酸素脳症をきたす.PaCO2が50 Torr以下で心理検査上の異常,40 Torr以下で知的活動の障害が現れるとされる.PaCO2が20 Torr以下になると酸素の細胞内取り込みが不可能となり,譫妄,意識障害,視力障害をきたす.慢性低酸素血症例では多幸症幻覚・妄想などの精神症状や夜間譫妄が起こりやすい.高度な低酸素血症後あるいは前駆して全身性ミオクローヌス(Lance-Adams症候群)がみられることがある.CTで両側淡蒼球に低吸収病変,MRIで線条体などにT2強調画像で高信号がみられる.呼吸不全をきたす疾患があり症状を呈したら血液ガスで診断する.予後は慢性閉塞性疾患の重症度による.治療は誘因の除去,気道の確保,酸素吸入,人工呼吸管理,感染の治療,気管支拡張薬などで一時的には改善する.[高 昌星]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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