肺真菌症(読み)はいしんきんしょう(英語表記)pulmonary mycosis

  • (呼吸器の病気)
  • (感染症)
  • はいしんきんしょう ‥シンキンシャウ
  • はいしんきんしょう〔シンキンシヤウ〕
  • 肺真菌症 pulmonary mycosis
  • 肺真菌症(感染症)

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

真菌による肺感染症で,人間の真菌症のうち最も発生頻度の高いもの。内因性のカンジダ症放線菌症,ジオトリクム症,外因性のものではアスペルギルス症クリプトコックス症ノカルジア症などがある。喀痰中に菌体が証明されるかどうかで診断する。ヒトからヒトへは伝染しない。

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家庭医学館の解説

[どんな病気か]
 真菌(かび)がに感染しておこる肺炎です。
 日本で問題になるのは、アスペルギルスカンジダ、クリプトコッカス、ムコールなどで、菌種によって病変が異なります(コラム「肺真菌症の病変」)。
 真菌は、病原性が弱く、口腔内(こうくうない)や上気道(じょうきどう)に常在しています。そして、感染しても症状が現われない場合が多いのです。しかし、からだの抵抗力が落ちてくると増殖し、感染症として発病します。これを日和見感染(ひよりみかんせん)といいます。
 肺は外界の空気にふれるので、真菌も入りやすく、肺に感染した後、血液に入って、肝臓、腎臓(じんぞう)、脳などにまで感染することもあります。
[症状]
 発熱、せき、たん、呼吸困難、全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん)(だるさ)など、細菌性肺炎や肺結核と、よく似た症状が現われてきます。細菌によく効く強力な抗生物質を使ってもよくならない場合は、真菌による肺炎の疑いがあります。
[検査と診断]
 たん、気管支用の特殊な内視鏡(気管支鏡(きかんしきょう))を使ってとった病巣部(びょうそうぶ)の分泌物(ぶんぴつぶつ)、あるいは、肺を一部洗った(気管支肺胞洗浄(きかんしはいほうせんじょう))洗浄液などに含まれる微生物を培養して、真菌であることを証明します。
 しかし、真菌は口内や上気道にふつうにいるので、見つかったからといって、かならずしも、それが肺炎の原因とはいえません。くり返し検査をして、同じ真菌がたくさん見つかれば、その真菌による感染と推測できるわけです。
 また、真菌に感染すると、血液中にその真菌に対する抗体(こうたい)ができます。カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカスでは、血清中(けっせいちゅう)の抗原(こうげん)、抗体を調べることで診断できることもあります。
 そのほか、血清中にアレルギー反応に関係する特殊な抗体(IgE抗体)が増えていることもあり、診断に役立ちます。
[治療]
 からだの免疫を弱める原因となっている病気がよくなれば、真菌による肺炎も自然によくなることがありますので、もとの病気の治療がたいせつです。
 真菌に対しては、アムホテリシンB、フルシトシン、ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾールという5つの抗真菌薬(こうしんきんやく)が開発されており、内服または注射で使います。
 血液の悪性腫瘍や、その治療のために、非常に白血球(はっけっきゅう)が少なくなっている患者さんに対しては、アスペルギルス症の予防のため、アムホテリシンBの吸入を行なうことがあります。

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世界大百科事典 第2版の解説

真菌によって起こる気管支・肺・胸膜の炎症性疾患で,病原真菌の種類によって,放線菌症,ノカルジア症,カンジダ症,アスペルギルス症,クリプトコックス症などと呼ばれる。一般に,菌類のうちの真菌植物の感染によって起こる病気を真菌症というが,これは,重症疾患の末期や副腎皮質ホルモン投与中などの抵抗力の弱まった患者や細菌に対する化学療法後の菌交代現象として起こる。発熱,喀白血球増加,肺炎様の症状が共通にみられるほか,肺アスペルギルス症では空洞内に菌球ができ,放線菌症,ノカルジア症では肺の病変は胸壁に及び瘻孔(ろうこう)をつくり菌糸の(ドルーゼ)を出す。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

真菌(カビ)を吸い込むことで引き起こされる肺の感染症の総称。真菌を抗原とする過敏反応としておこるアレルギー性の肺疾患も含まれる。癌(がん)や膠原(こうげん)病などの治療中で免疫抑制薬やステロイド薬あるいは抗癌薬などを服用して免疫力が低下しているなど、易感染状態にある人が感染しやすい。基礎疾患があるため見落とされがちな疾患であったが、診断技術が進歩している。また、真菌の種類によっては健常人でも発症することがある。もっとも多くみられるのはアスペルギルスを原因菌とする肺アスペルギルス症で、ほかに肺カンジダ症、肺クリプトコッカス症、肺ムコール症、肺ノカルジア症などがある。発熱および喀痰(かくたん)や咳(せき)など普通の呼吸器感染症と同じような症状を呈するほか、呼吸困難や倦怠(けんたい)感などを伴うこともある。副作用の少ない抗真菌薬が開発されており、治療はその局所的または全身的投与が第一選択となる。肺の空隙(くうげき)に感染しやすい肺アスペルギルス症では、空隙の外科的切除が根治療法として選択される。

[編集部 2016年9月16日]

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 放線菌、カンジダ、アスペルギルスなど種々の真菌(かび)が、肺や気管支に繁殖しておこす病気。咳、痰、微熱などがつづき、寝汗、胸痛、呼吸困難など細菌性肺炎や肺結核に似た症状を呈する。

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内科学 第10版の解説

 肺真菌症は真菌を原因とする深在性真菌症のことである.原因となる真菌は主として経気道的に感染する.わが国で頻度の多い疾患は肺アスペルギルス症と肺クリプトコックス症である.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者ではニューモシスチス肺炎の罹患率が高い.近年,海外渡航先で感染する輸入真菌症にも注意すべき疾患がある.
(1)肺アスペルギルス症(pulmonary aspergillosis)
概念
 アスペルギルス属の分生子を吸入して生じた呼吸器疾患の総称である.アスペルギルス属は,室内の空中浮遊菌や食品の汚染菌として自然界に広く存在している.呼吸器疾患の原因菌種ではAspergillus fumigatusが多数を占めている.
病型・臨床症状
 宿主の免疫能や既存の肺病変により以下の病型を呈する.
1)侵襲性肺アスペルギルス症(invasive pulmonary aspergillosis:IPA):
発症の危険因子は好中球機能の低下である.急性白血病,造血幹細胞移植,抗癌化学療法,慢性肉腫症患者に好発する.副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の投与中にも発症する.臨床症状は広域抗菌薬に反応しない発熱,胸痛などで,喀血や血痰を伴うことがある.中枢神経,心臓などに感染が及ぶ播種性感染症に進展することがある.感染症初期の胸部X線所見では,単発あるいは多発の結節陰影を呈することが多い.胸部CTでは約1/3にハローサイン(halo sign:円形陰影周囲のすりガラス陰影)を認める.また,胸壁側を底とする楔形陰影を呈することがある.経過とともに浸潤影を呈し,画像所見では細菌などほかの感染症との区別はできない.好中球機能が回復すると,好中球が壊死した組織を処理し,内部に円形陰影(necrotic lung ball)を伴う三日月状の空洞(air-crescent sign)を形成する(図7-2-17).
2)慢性肺アスペルギルス症(chronic pulmonary aspergillosis:CPA): 肺に既存病変が存在する患者の下気道に,アスペルギルス属が侵入し,腐生的に定着,あるいは周囲の肺組織に侵襲していく慢性感染症のことである.既存病変には陳旧性肺結核症,非結核性抗酸菌症,慢性閉塞性肺疾患,間質性肺炎,気管支拡張症,胸部外科手術後などの空洞性病変が多い.典型例では空洞内に体位で移動する真菌球(fungus ball)を認める.腐生のみで侵襲的な感染症がないものを肺アスペルギローマ(pulmonary aspergilloma),空洞壁の肥厚や空洞周囲の浸潤影を伴い,咳・痰・血痰・発熱・体重減少などの感染症としての活動性を有するものを,慢性壊死性肺アスペルギルス症(chronic necrotizing pulmonary aspergillosis:CNPA)とよぶ.これらは宿主の免疫能に応じた一連の疾患であるとして,肺アスペルギローマとCNPAを総じてCPAとよぶ.CNPAは副腎皮質ステロイド薬の投与や糖尿病の合併,低栄養状態など宿主の免疫能の低下を背景に有することが多い.
3)アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis):
吸入したアスペルギルス属に対するⅠ型およびⅢ型,Ⅳ型アレルギーにより発症する疾患で,喘息発作や移動性または固定性の肺浸潤影を特徴とする(詳細は【⇨7-4-2)】).
診断
 発症リスクを有する患者に,広域抗菌薬投与に反応しない発熱や咳,血痰などの呼吸器症状が出現したときには,肺アスペルギルス症を疑う.
1)確定診断:
痰や気管支洗浄液からアスペルギルス属を分離するか,細胞診や組織診で真菌の菌体成分を病理学的に証明する.
2)臨床診断:
IPAでは典型的な胸部X線像や,血清中のアスペルギルス(ガラクトマンナン)抗原,β-d-グルカンの検出から臨床診断を行う.
 CPAでは血清中のアスペルギルス抗体が約90%で陽性となる.IPAと異なり,アスペルギルス抗原やβ-d-グルカンが陽性化しないこともある.
治療・予後
 IPAでは確定診断・臨床診断のいずれも抗真菌薬を投与する.IPAは肺アスペルギルス症の中で最も重篤な病型であり,死亡率も高い.臨床診断に至らずとも,IPAを疑えば,抗真菌薬を投与する.造血幹細胞移植例やハイリスク化学療法例では,抗真菌薬の予防投与が行われている.
 CPAでは症状がなければ経過観察を行う.発熱や呼吸器症状など,感染症としての活動性があれば抗真菌薬を投与する.血痰や喀血があれば,止血薬投与や気管支動脈塞栓術,手術適応を考慮する.CPAは寛解・増悪を繰り返しながら徐々に悪化していく.
 抗真菌薬は,アムホテリシンBリポソーマル製剤やボリコナゾール,イトラコナゾール,ミカファンギン,カスポファンギンのいずれかを選択する.
(2)肺クリプトコックス症(pulmonary cryptococcosis)
概念
 クリプトコックス属によって起きる呼吸器感染症で,わが国ではCryptococcus neoformansが原因である.
病型・臨床症状
 基礎疾患の有無により慣用的に以下に分類する.C. neoformansは髄膜への親和性が強く,髄膜炎を発症すると,頭痛,悪心,嘔吐と項部硬直などの髄膜刺激症状を認める.
1)原発性肺クリプトコックス症:
基礎疾患を有していない健常者に発症した肺クリプトコックス症.臨床症状を認めることは少なく,検診異常で偶然に発見されることが多い.
2)続発性肺クリプトコックス症:
基礎疾患を有する患者に発症したクリプトコックス症.悪性腫瘍,腎疾患,糖尿病,HIV感染症,副腎皮質ステロイド薬投与中など,基礎疾患はさまざまである.症状は,咳,痰,発熱,胸痛,全身倦怠感,体重減少などである.
診断
 確定診断は気管支肺胞洗浄液や気管支肺生検検体からの菌体の確認による.肺胞洗浄液や髄液中のC. neoformansの莢膜は墨汁染色により観察される.生検では肉芽腫性病変や囊胞様病変のなかにクリプトコックス菌体を認める.病理所見ではクリプトコックスの莢膜はムチカルミン染色やPAS染色で赤く,アルシアンブルー染色で青く,Grocott染色では黒褐色に染色される.
 血清中のクリプトコックス抗原検査は,真菌症の中でも最も血清診断の信頼性が高く,陽性の場合は菌体が確認されなくても,画像や臨床所見とあわせて,肺クリプトコックス症と臨床診断される.本検査は血液のほか髄液,気管支肺胞洗浄液が検体として有用である.本症ではβ-d-グルカンは上昇しない.
 胸部X線所見は,孤立あるいは多発結節影,肺炎様陰影など多彩である.結節状陰影は比較的濃く境界鮮明である.肺炎様陰影は空洞を伴うことが多い.一般に,免疫能が保たれた宿主では結節状となり,免疫不全宿主では肺炎様の陰影となる.
治療・予後
 原発性では無治療でも症状の出現がないことも多い.細胞性免疫能がきわめて低下していると播種性感染症へと進展し予後が不良となる.
 肺クリプトコックス症では原則として臨床診断あるいは確定診断された例に治療を行う.原発性および軽症の続発性症例では,フルコナゾール,またはイトラコナゾールを投与する.重症の続発性症例では,上記薬にフルシトシンを併用する.ボリコナゾールやアムホテリシンBも有効である.治療期間は,通常,原発性では3カ月間,続発性では6カ月間であるが,日和見感染症として発症した場合は長期に及ぶことがある.クリプトコックス抗原価が陰性になるには長期間を要するため治療終了の目安にはならない.
(3)ニューモシスチス肺炎( Pneumocystis pneumonia:PCP)
  Pneumocystis jiroveciによる肺炎である.HIV患者に高頻度に合併する日和見感染症で,末梢血のCD4リンパ球数が200/μL以下で発症することが多い.非HIV 患者では副腎皮質ステロイド薬投与中の患者において発症する(詳細は【⇨ 4-14-7)】).
(4)肺接合菌症( pulmonary zygomycosis)/ 肺ムーコル症( pulmonary mucormycosis)
 肺に発症した接合菌症のこと.肺にはムーコル目による感染が多いため,肺ムーコル症ともよばれる(詳細は【⇨ 4-14-4)】).
(5)輸入真菌症
 日本国内に生息しない真菌による感染症で,海外の流行域で感染し日本で発病がみられたものをいう.代表的な肺真菌症では, コクシジオイデス症, ヒストプラズマ症, ガッティ型クリプトコックス症がある.流行地域への渡航が問診上重要である(詳細は【⇨ 4-14-6)】).[時松一成]
■文献
本化学療法学会「一般医療従事者のための深在性真菌症に対する抗真菌薬使用ガイドライン作成委員会」編:抗真菌薬使用ガイドライン,杏林舎,東京,2009.
深在性真菌症のガイドライン作成委員会編:深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2007,協和企画,東京,2007.

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六訂版 家庭医学大全科の解説

どんな病気か

 近年、患者層が高齢化し、ステロイドホルモン薬に代表される免疫抑制薬の投与、さらに臓器移植などの高度医療の結果、免疫状態の不良な宿主に発症する病気です。カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ムーコルの4菌種が主な原因菌です。

 抗真菌薬を用いて治療にあたりますが、早期に診断されない場合は急速に病状が進行し、一般に予後は不良です。

 剖検(ぼうけん)(解剖して調べること)における肺真菌症の原因真菌別頻度は、アスペルギルス症が最多で、クリプトコッカス症、ムーコル症が続き、肺に限局したカンジダ症は比較的低いとされています。

どのように感染するか

 外因性の肺真菌症と内因性の肺真菌症に大別されます。

 アスペルギルス症、クリプトコッカス症、ムーコル症は、外界から気道を通って吸引された胞子が肺に定着・増殖することにより感染が成立します(外因性)。

 これに対してカンジダは、ヒトの口腔、消化管、陰部などの常在真菌であり、口腔内で増殖したカンジダの誤嚥(ごえん)に起因したり、敗血症の一分症として肺カンジダ症が発症する場合もあります(内因性)。

症状の現れ方

 いずれも白血病や臓器移植後の患者さんなど、強い免疫抑制状態にある宿主に発症します。このような患者さんでは、一般の抗菌薬では効果がないこと、発熱や喀痰(かくたん)、咳の症状、胸部X線写真で浸潤影を認める場合に本症を疑い、早期に検査を進める必要があります。

 アスペルギルス症やムーコル症では、血管親和性が高く、血痰(けったん)喀血(かっけつ)を生じることもあります。

検査と診断

 胸部X線写真では特徴的な所見はありませんが、アスペルギルス症やムーコル症では、浸潤影内にクレッセントサイン(菌球と空洞壁の間にみられるすきま)を示す場合があります。クリプトコッカス症は、宿主の免疫状態に応じて結節性陰影から肺炎像までさまざまな病型をとります。

 診断では、病巣から無菌的に採取した検体で病原真菌を分離・同定すること、あるいは組織内への真菌の浸潤を確認することが決め手となります。しかし、患者さんの状態によってはこのような検査ができない場合も少なくありません。補助診断としてカンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカスの血中抗原検査が用いられています。

 また、カンジダ症、アスペルギルス症の存在診断には血中β(ベータ)­Dグルカン測定が有用とされています。

治療の方法

 一般に抗真菌薬を用います。現在日本で深在性真菌症に使用可能な抗真菌薬の一覧を表4に示しました。

 カンジダ症やクリプトコッカス症には、フルコナゾール(ジフルカン)をはじめとするアゾール系抗真菌薬が第一選択薬となり、ムーコル症に対してはアムホテリシンB(ファンギゾン、アンビゾーム)のみが効果を期待できます。

宮下 修行


どんな感染症か

 一般にカビと称される真菌による肺感染症です。主な原因菌としては、アスペルギルスとクリプトコックスが知られています。肺真菌症の大半は、日和見(ひよりみ)感染症(コラム)として発症します。

 アスペルギルスが免疫能の低下した、とくに好中球(こうちゅうきゅう)の数や機能が減弱した患者さんに感染した場合には、最も重篤な病型である侵襲性(しんしゅうせい)肺アスペルギルス症として発症します。免疫能の低下が軽い場合には、菌の組織内への侵襲の程度が弱く、慢性の経過をたどる慢性壊死性(えしせい)肺アスペルギルス症などを発症します。

 また、感染症としての議論の余地を残しますが、非侵襲性肺アスペルギルス症(菌球症、アスペルギローマ)やアレルギー性気管支肺アスペルギルス症など、真菌が肺内で増殖することによるいくつかの病態が知られています。

 クリプトコックス症は、健常者にも発症します。この場合、肉芽腫性(にくげしゅせい)病変をつくりますが、多くは無症状で、自然治癒傾向があるといわれています。

 しかし、本症の多くも日和見感染症であり、とくにエイズのようにT細胞に重い障害がある場合には、肺から全身に散布され、全身性クリプトコックス症を引き起こします。

 このほかに少数例ですが、輸入真菌症として、コクシジオイデス症やヒストプラズマ症が報告されています。

症状の現れ方

 原因菌や病型によって症状の現れ方は異なり、肺真菌症に特異的な症状はありません。

 非侵襲性アスペルギルス症の場合は、もともと肺に空洞がある患者さん(多くは陳旧性肺結核(ちんきゅうせいはいけっかく))に発症し、臨床的には、(せき)、痰、喀血(かっけつ)、呼吸困難などの呼吸器症状とともに、発熱やるい(そう)(やせ)などの全身症状もみられます。

 侵襲性肺アスペルギルス症は、好中球減少症や大量のステロイド薬投与などの危険因子をもつ患者さんに発症し、急激な発熱や全身倦怠感(けんたいかん)などの全身症状に加え、さまざまな呼吸器症状がみられます。多くの症例では、全身状態が急速に増悪(ぞうあく)します。

 クリプトコックス症の場合、日和見感染ではさまざまな呼吸器症状や発熱、全身倦怠感などが認められますが、健常者に発症した場合の多くは無症状で、健康診断や他の疾患の経過観察中に、胸部X線の異常陰影として発見されます。

検査と診断

 いずれの肺真菌症でも、確定診断には病巣からの菌の証明が必要ですが、実際には困難な場合が少なくありません。

 非侵襲性肺アスペルギルス症、とくにアスペルギローマの場合、典型例では胸部X線やCTで空洞内に菌球が認められます。侵襲性肺アスペルギルス症では、結節影や浸潤性を認めますが、好中球減少時にはHalo サイン(小結節影、浸潤影を取り囲むスリガラス陰影)が、また好中球の回復時には、air-crescent サイン(結節性浸潤影の上面にみられる、透明度の高い半月形成)がみられる場合があります。

 クリプトコックス症の場合、エイズのように重篤なT細胞の障害がある時には、まったく異常陰影を示さないことが知られています。また、健常者に発症した場合には、多発性の結節影を認めます。

 補助診断としては、血清中の抗原検出が広く用いられています。しかし、非侵襲性アスペルギルス症や健常者に発症したクリプトコックス症などのように、抗原の血中への曝露(ばくろ)が少ない場合には、検出されにくくなるので注意が必要です。

治療の方法

 重症度や病型により用量は異なりますが、抗真菌薬の全身投与が原則です。アスペルギルス症の場合は、アゾール系、ポリエン系ならびにキャンディン系抗真菌薬のうちのどれか1つを、またクリプトコックス症の場合は、前2者から1つを選択します。

病気に気づいたらどうする

 前述のように多くの肺真菌症は日和見感染として発症するので、好中球減少症や大量のステロイド薬投与、HIV感染、臓器移植などの重篤な基礎疾患がある患者さんでは、常に肺真菌症の発症に留意する必要があります。何らかの呼吸器症状や全身症状が現れた場合は、すみやかな検査と治療が必要です。

密田 亜希, 澁谷 和俊

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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