出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
一般にカビと称される真菌による肺感染症です。主な原因菌としては、アスペルギルスとクリプトコックスが知られています。肺真菌症の大半は、日和見(ひよりみ)感染症(コラム)として発症します。
アスペルギルスが免疫能の低下した、とくに
また、感染症としての議論の余地を残しますが、非侵襲性肺アスペルギルス症(菌球症、アスペルギローマ)やアレルギー性気管支肺アスペルギルス症など、真菌が肺内で増殖することによるいくつかの病態が知られています。
クリプトコックス症は、健常者にも発症します。この場合、
しかし、本症の多くも日和見感染症であり、とくにエイズのようにT細胞に重い障害がある場合には、肺から全身に散布され、全身性クリプトコックス症を引き起こします。
このほかに少数例ですが、輸入真菌症として、コクシジオイデス症やヒストプラズマ症が報告されています。
原因菌や病型によって症状の現れ方は異なり、肺真菌症に特異的な症状はありません。
非侵襲性アスペルギルス症の場合は、もともと肺に空洞がある患者さん(多くは
侵襲性肺アスペルギルス症は、好中球減少症や大量のステロイド薬投与などの危険因子をもつ患者さんに発症し、急激な発熱や全身
クリプトコックス症の場合、日和見感染ではさまざまな呼吸器症状や発熱、全身倦怠感などが認められますが、健常者に発症した場合の多くは無症状で、健康診断や他の疾患の経過観察中に、胸部X線の異常陰影として発見されます。
いずれの肺真菌症でも、確定診断には病巣からの菌の証明が必要ですが、実際には困難な場合が少なくありません。
非侵襲性肺アスペルギルス症、とくにアスペルギローマの場合、典型例では胸部X線やCTで空洞内に菌球が認められます。侵襲性肺アスペルギルス症では、結節影や浸潤性を認めますが、好中球減少時にはHalo サイン(小結節影、浸潤影を取り囲むスリガラス陰影)が、また好中球の回復時には、air-crescent サイン(結節性浸潤影の上面にみられる、透明度の高い半月形成)がみられる場合があります。
クリプトコックス症の場合、エイズのように重篤なT細胞の障害がある時には、まったく異常陰影を示さないことが知られています。また、健常者に発症した場合には、多発性の結節影を認めます。
補助診断としては、血清中の抗原検出が広く用いられています。しかし、非侵襲性アスペルギルス症や健常者に発症したクリプトコックス症などのように、抗原の血中への
重症度や病型により用量は異なりますが、抗真菌薬の全身投与が原則です。アスペルギルス症の場合は、アゾール系、ポリエン系ならびにキャンディン系抗真菌薬のうちのどれか1つを、またクリプトコックス症の場合は、前2者から1つを選択します。
前述のように多くの肺真菌症は日和見感染として発症するので、好中球減少症や大量のステロイド薬投与、HIV感染、臓器移植などの重篤な基礎疾患がある患者さんでは、常に肺真菌症の発症に留意する必要があります。何らかの呼吸器症状や全身症状が現れた場合は、すみやかな検査と治療が必要です。
密田 亜希, 澁谷 和俊
近年、患者層が高齢化し、ステロイドホルモン薬に代表される免疫抑制薬の投与、さらに臓器移植などの高度医療の結果、免疫状態の不良な宿主に発症する病気です。カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ムーコルの4菌種が主な原因菌です。
抗真菌薬を用いて治療にあたりますが、早期に診断されない場合は急速に病状が進行し、一般に予後は不良です。
外因性の肺真菌症と内因性の肺真菌症に大別されます。
アスペルギルス症、クリプトコッカス症、ムーコル症は、外界から気道を通って吸引された胞子が肺に定着・増殖することにより感染が成立します(外因性)。
これに対してカンジダは、ヒトの口腔、消化管、陰部などの常在真菌であり、口腔内で増殖したカンジダの
いずれも白血病や臓器移植後の患者さんなど、強い免疫抑制状態にある宿主に発症します。このような患者さんでは、一般の抗菌薬では効果がないこと、発熱や
アスペルギルス症やムーコル症では、血管親和性が高く、
胸部X線写真では特徴的な所見はありませんが、アスペルギルス症やムーコル症では、浸潤影内にクレッセントサイン(菌球と空洞壁の間にみられるすきま)を示す場合があります。クリプトコッカス症は、宿主の免疫状態に応じて結節性陰影から肺炎像までさまざまな病型をとります。
診断では、病巣から無菌的に採取した検体で病原真菌を分離・同定すること、あるいは組織内への真菌の浸潤を確認することが決め手となります。しかし、患者さんの状態によってはこのような検査ができない場合も少なくありません。補助診断としてカンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカスの血中抗原検査が用いられています。
また、カンジダ症、アスペルギルス症の存在診断には血中
一般に抗真菌薬を用います。現在日本で深在性真菌症に使用可能な抗真菌薬の一覧を表4に示しました。
カンジダ症やクリプトコッカス症には、フルコナゾール(ジフルカン)をはじめとするアゾール系抗真菌薬が第一選択薬となり、ムーコル症に対してはアムホテリシンB(ファンギゾン、アンビゾーム)のみが効果を期待できます。
宮下 修行
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
真菌(カビ)を吸い込むことで引き起こされる肺の感染症の総称。真菌を抗原とする過敏反応としておこるアレルギー性の肺疾患も含まれる。癌(がん)や膠原(こうげん)病などの治療中で免疫抑制薬やステロイド薬あるいは抗癌薬などを服用して免疫力が低下しているなど、易感染状態にある人が感染しやすい。基礎疾患があるため見落とされがちな疾患であったが、診断技術が進歩している。また、真菌の種類によっては健常人でも発症することがある。もっとも多くみられるのはアスペルギルスを原因菌とする肺アスペルギルス症で、ほかに肺カンジダ症、肺クリプトコッカス症、肺ムコール症、肺ノカルジア症などがある。発熱および喀痰(かくたん)や咳(せき)など普通の呼吸器感染症と同じような症状を呈するほか、呼吸困難や倦怠(けんたい)感などを伴うこともある。副作用の少ない抗真菌薬が開発されており、治療はその局所的または全身的投与が第一選択となる。肺の空隙(くうげき)に感染しやすい肺アスペルギルス症では、空隙の外科的切除が根治療法として選択される。
[編集部 2016年9月16日]
真菌によって起こる気管支・肺・胸膜の炎症性疾患で,病原真菌の種類によって,放線菌症,ノカルジア症,カンジダ症,アスペルギルス症,クリプトコックス症などと呼ばれる。一般に,菌類のうちの真菌植物の感染によって起こる病気を真菌症というが,これは,重症疾患の末期や副腎皮質ホルモン投与中などの抵抗力の弱まった患者や細菌に対する化学療法後の菌交代現象として起こる。発熱,喀痰,白血球増加,肺炎様の症状が共通にみられるほか,肺アスペルギルス症では空洞内に菌球ができ,放線菌症,ノカルジア症では肺の病変は胸壁に及び瘻孔(ろうこう)をつくり菌糸の塊(ドルーゼ)を出す。肺クリプトコックス症では脳や髄膜に移行して髄膜炎を起こす。放線菌症にはペニシリン,ノカルジア症にはサルファ剤,その他の真菌症にはアムホテリシンBが有効で,カンジダ症およびクリプトコックス症には5-フルオロシトシン(5-Fc)も有効である。肺真菌症は一般に治癒は困難であり,重症患者の末期に起きた場合,予後は不良である。
執筆者:木村 仁
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