脳挫傷(読み)ノウザショウ(その他表記)cerebral contusion

精選版 日本国語大辞典 「脳挫傷」の意味・読み・例文・類語

のう‐ざしょうナウザシャウ【脳挫傷】

  1. 〘 名詞 〙 外傷によって、脳・脳膜および脳神経に明らかな傷を認める疾患。傷を受けた部位によって、手足の麻痺言語障害顔面神経麻痺などのほか、強度の意識障害を伴う。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脳挫傷」の意味・わかりやすい解説

脳挫傷
のうざしょう
cerebral contusion

脳の表面か深部かを問わず、脳組織の挫滅により出血と壊死(えし)がみられる構造破壊の形態を示すことば。転落、暴力、交通事故などによる頭部の打撲が原因で、脳に肉眼的に識別できるような裂けを伴う創傷が生じていると診断される状態は脳裂傷という。頭部外傷による閉鎖性脳損傷のうち脳しんとうよりも重篤なもので、数時間以上に及ぶ意識障害、運動麻痺(まひ)などの錐体路(すいたいろ)症候、瞳孔(どうこう)不同症、けいれん発作などがみられ、しばしば硬膜下血腫(けっしゅ)や脳内血腫、頭蓋(とうがい)骨骨折などを伴う。脳実質損傷は、受傷時の力学過程を反映して、局所性損傷とびまん性の損傷に分けられる。通常、脳挫傷は脳の特定部位に限局してみられる。打撲部位の直撃損傷、反対側の反衝損傷、脳の回転運動などによって脳組織が挫滅する滑り損傷などである。それに対して脳幹を含めて脳全体に損傷がみられる場合がある。このうちびまん性軸索(じくさく)損傷は脳実質損傷の特殊型として取り扱われる。脳挫傷は、病理形態学的なことばであるが、しばしば臨床的な重症度を示すことばとして用いられる。脳実質損傷は、臨床的には大きく3型に分けて考えるのが便利である。(1)頭蓋骨骨折に伴うもの、(2)直撃一対側損傷に基づずくもの、(3)びまん性損傷の部分現象として現れるもの、である。症状として脳髄各所の出血や挫滅巣に伴う限局性・びまん性の脳浮腫(ふしゅ)が必発するとともに脳循環が妨げられ、ますます浮腫が増強される。これを未然に防ぐことが重要である。

 重症の場合は広範囲頭蓋減圧開頭術が行われるが、一般には脳浮腫や脳腫脹(しゅちょう)、すなわち頭蓋内圧の亢進(こうしん)状態を防止あるいは改善するための保存療法が行われる。脳循環を確保して十分な酸素量を脳に供給し、高張液の点滴静注または経口投与によって脳浮腫の脱水を図るほか、頭蓋内圧下降を目的としてバルビツール剤の点滴静注を行ったり、副腎(ふくじん)皮質ホルモンや中間代謝促進剤、鎮けい剤や鎮静剤、さらに局所感染や肺感染症などの合併症防止のために抗生物質も投与される。最近、低体温療法が見直されてきている。

[加川瑞夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「脳挫傷」の意味・わかりやすい解説

脳挫傷 (のうざしょう)
cerebral contusion

頭部外傷によって脳,とくに脳の表面に起こる損傷で,局所の脳浮腫と組織内の小さな点状出血との集合体をいう。脳振盪(のうしんとう)が脳組織の形態的変化を伴わないのに対して,脳挫傷は脳振盪よりも一段と強い障害であり,脳組織の形態的損傷を伴うので,より強い意識障害,運動片麻痺などを生ずる。頭部外傷後,時間経過とともに状態が悪化し,脳挫傷が脳内血腫になることもある。脳挫傷の起こりやすい部位は,大脳の前頭葉の下面あるいは前方極部,および側頭葉の前方極部である。その理由は,これらの脳の部分が頭蓋骨内面の凹凸に富んだ部分に接しているためで,頭部に外力が加わった場合に,脳そのものが移動して頭蓋骨内面に打ちつけられ,脳挫傷を生じやすい。したがって頭部に外力が加わった場合に,外力が加わった直下ばかりでなく,その反対側にも脳挫傷を生ずることが多い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「脳挫傷」の意味・わかりやすい解説

脳挫傷
のうざしょう
cerebral contusion

頭部外傷のうち,脳実質に種々の程度の器質的障害が生じたものをいう。骨折片などによって脳が直接損傷するものと,急激な加速や減速によって脳が強く圧迫,牽引されて損傷するものとに大別される。一般に急性期は意識障害が強いが,損傷部が限局する場合は,片麻痺,失語症,視野欠損などの局所症状が主となる。脳挫傷が高度の場合には,著明な脳浮腫が起り,その結果,脳幹部の圧迫や脳循環障害が引起され,中枢の麻痺のため重態となる。また,脳挫傷は硬膜下血腫を併発しやすい。挫滅した脳組織が瘢痕治癒したのち,てんかん発作の焦点となることもある (→外傷性てんかん ) 。

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家庭医学館 「脳挫傷」の解説

のうざしょう【脳挫傷 Cerebral Contusion】

[どんな病気か]
 外から加わった力のために、脳に断裂(切れ目)、むくみ(浮腫(ふしゅ))、小出血などの損傷(そんしょう)が生じた状態です。
[治療]
 脳圧降下剤の使用などの頭蓋内圧降下療法(ずがいないあつこうかりょうほう)、輸液などによる全身管理、気管内挿管(きかんないそうかん)による呼吸管理など、あるいは低体温法の保存療法が治療の主体となります。
 また、場合によっては手術による減圧も行なわれます。しかし、効果には限界があって、重症の場合は予後がよくありません。

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