脳血栓の急性期治療と再発予防

内科学 第10版 の解説

脳血栓の急性期治療と再発予防(脳血栓)

(4)脳血栓の急性期治療と再発予防
a.基本治療
 脳卒中を専門とする内科・外科・リハビリテーション科医師,看護師,理学療法士のチームにより急性期脳卒中専門病棟(stroke care unit:SCU/stroke unit:SU)への入院が推奨される.頭部挙上を禁じベッド上安静を指示し,脱水予防と血液粘度低下のため持続輸液を行い,脳灌流圧を保つ.急性期は交感神経系が亢進し高血圧を示すが,脳血流の自動調節能が障害されているので降圧療法は原則適応外である.症状動揺がなければ,頭部挙上を順次許可する.意識障害が遷延し経口摂取が困難な場合経管栄養を開始,意識レベルが改善すれば,嚥下評価後誤嚥に注意を払い経口摂取を行う.感染症による発熱に対する対応,脂質異常症に対するスタチンおよびインスリンなどによる高血糖の是正も行う.
b.超急性期再灌流療法
 発症4.5時間以内に治療が開始できる超急性期に対しては,脳梗塞の病型にかかわらずrt-PA(recombinant tissue plasminogen activator,組織プラスミノーゲン活性化因子)・アルテプラーゼの適応を考慮する.投与基準(表15-5-11)を満たし,CT上早期虚血変化early CT sign(レンズ核構造の不鮮明化,島皮質の消失,皮髄境界の不鮮明化)が広範囲ではなく,出血性病変がなければ本邦では0.6 mg/kgが経静脈全身投与される(図15-5-14).rt-PAによる早期再灌流療法は虚血性ペナンブラを救援し,その結果症候が軽快し軽微な後遺症で社会復帰せしめる.しかし,禁忌事項を確認して適正な使用を行わないと梗塞部の出血性変化・血腫による症状悪化や死亡の危険が増加する.投与後の高血圧に対して180/105 mmHg以下になるように降圧することが例外的に推奨されている.アルテプラーゼが無効の場合およびアルテプラーゼ禁忌例かつ発症8時間以内の内頸動脈・中大脳動脈起始部及び脳底動脈閉塞症例に対するカテーテルによる血管内治療,Merciリトリーバーによる血栓回収や閉塞血管における血栓吸引除去治療ペナンブラシステムが高い再灌流率を得ている.またさらに改良が加えられたデバイス:ステント型リトリーバーが開発されている.
c.抗血栓療法
 rt-PA適応症例以外は,抗血小板療法としてアスピリン(100~200 mg/日)の早期投与が推奨される.アテローム血栓性脳梗塞には抗血小板作用も有する抗トロンビン薬アルガトロバンまたは抗凝固薬であるヘパリン併用ラクナ梗塞には血管拡張作用も有するトロンボキサン合成酵素阻害薬オザグレルナトリウムが血栓進展や再発予防のため投与される.また,rt-PA投与後24時間に抗血栓療法が開始される.内頸動脈狭窄症や頭蓋内動脈狭窄に対してクロピドグレルやシロスタゾールがアスピリンと併用される.
d.脳保護薬など
 活性酸素消去薬エダラボンが脳保護薬として早期投与され,脳浮腫に対して浸透圧利尿薬10%グリセリンが併用される.血行力学的脳梗塞に対し,血液灌流量増加かつ粘稠度低下のため十分な補液や低分子デキストランが考慮される.
e.急性期外科的治療
 急性期小脳梗塞および中大脳動脈領域の大梗塞による脳浮腫や出血性変化に対して頭部30度挙上,10%グリセリンや20%マンニトール投与,補液量制限にもかかわらず,脳ヘルニアに至った場合,救命のため開頭減圧術(hemicraniectomy)の適応を考慮する. また,内頸動脈始起部の有意狭窄(直径比で70%以上)によるアテローム血栓性脳梗塞亜急性期には頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)が,脳梗塞再発予防の観点から内科治療群よりもすぐれており,急性期における再発予防のための準緊急手術の適応を個々の症例で検討する必要がある(図15-5-11).心血管合併症を有したり75歳以上の高齢者に対しては,さまざまな脳塞栓予防デバイス(遠位フィルターやflow reversal)を用いた血管内ステント治療(carotid angioplasty/stenting)がCEAと同等の治療法として考慮される.繰り返す血行力学的脳梗塞・TIAに対し,SPECTにより安静時低灌流かつ予備能低下を呈した症例に対し(図15-5-13),浅側頭動脈・中大脳動脈吻合などの頭蓋外動脈頭蓋内動脈吻合術(EC-IC anastomosis)が考慮される(図15-5-13).手術法の選択とタイミングを外科医と考えることになる.
f.ニューロリハビリテーション
 急性期臥床時から体位変換,良肢位保持,麻痺側関節の可動を開始し,深部静脈血栓症と肺塞栓,廃用症候群の予防を行う.脳血栓症による神経学的徴候の安定を確認してから,起座訓練,立位訓練,平行棒間歩行訓練と積極的にリハビリテーションを早期から推進する.健肢使用の制限と患肢使用の段階的訓練を柱とするCI療法(constant induced movement therapy)や促通反復療法に加え,hybrid assistive limbなどのロボット工学などとの連携もこの分野では進んでいる.言語や作業療法も順次追加する.さらに,急性期から回復期・維持期施設へのシームレスなリハビリテーションが地域連携パスを活用して行われている.脳血管性うつ・アパシー・認知症・症候性てんかんはリハビリテーションの阻害因子となるので,心のケアや生活支援に加え,薬物療法が追加される.
g.慢性期の再発予防
 抗血小板療法としてアスピリン,シロスタゾール,クロピドグレルが投与される.消化管や頭蓋内出血性合併症の回避にも注意を払い,急性期に2剤併用であっても発症3カ月以上安定期には単剤投与が主流となりつつある.動脈硬化の危険因子の管理が必要で,回復期には高血圧に対して症状が安定し3週間以上経過後,緩徐な降圧を導入し,維持期には早朝を含めた24時間にわたる厳格な降圧が再発率を軽減させる.長時間作用型カルシウム拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬,少量の降圧利尿薬から選択される.糖尿病に対する治療ではインスリン抵抗性の改善や食後高血糖の修正,脂質異常症に対して高LDL血症やLDL/HDL比の是正に対してスタチン投与やEPA製剤の併用の有用性が示されている.[大槻俊輔・松本昌泰]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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