日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘパリン」の意味・わかりやすい解説
ヘパリン
へぱりん
heparin
強力な血液凝固阻止作用をもつ多糖類の一種。初めイヌの肝臓(ラテン語hepar)から分離されたのでheparinと命名された。小腸、肺に多く、皮膚、胸腺その他にも存在する。市販品は腸由来のものが多い。
構造的にはヘパリンはグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖ともいう)とよばれる多糖類に属す。グリコサミノグリカンという名はグリコサミン(糖のヒドロキシ基-OHの一つがアミノ基-NH2と置換した化合物の総称。アミノ糖ともいう)を含んだ多糖類(グリカンglycanは多糖を表す)ということを表すが、化学構造はグリコサミンとウロン酸(糖のカルボニル基と反対の末端の炭素がカルボキシ基-COOHになった化合物の総称)の2糖の繰返し構造を骨格とする。ヘパリンではグリコサミンの部分がD-グルコサミン(D-グルコースのヒドロキシ基-OHの一つがアミノ基-NH2と置換した化合物)、ウロン酸の部分がD-グルクロン酸(D-グルコースのカルボニル基と反対の末端の炭素がカルボキシ基-COOHになった化合物)あるいはL-イズロン酸(アルドヘキソースの一種であるL-イドースのカルボニル基と反対の末端の炭素がカルボキシ基-COOHになった化合物)が骨格をなす。さらに大部分のグルコサミンのアミノ基と6位のヒドロキシ基、および一部のイズロン酸の2位のヒドロキシ基が硫酸化されており、もっとも硫酸化程度が高いグリコサミノグリカンである。分子量は6000~2万と不均一である。
ヘパリンはマスト細胞(肥満細胞ともいう。ヘパリンやヒスタミンなどの分泌顆粒(かりゅう)を含み、血管周囲に多く存在する)中でプロテオヘパリン(ヘパリンの前駆体で分子量100万の巨大分子)として生合成され、エンド-β(ベータ)-グルクロニダーゼの作用で、分子量6000~2万となり、ヒスタミンなどと結合してマスト細胞の顆粒中に貯蔵される。ヘパリンはアンチトロンビンⅢ(血液凝固に関与するトロンビンなどの働きを阻害する糖タンパク質)の血液凝固阻害作用を促進する。臨床的には、播種(はしゅ)性血管内凝固症候群および血栓塞栓(そくせん)症の治療、血液体外循環時における還流血液の凝固防止などに用いられる。
[徳久幸子]