脾臓損傷(読み)ひぞうそんしょう(その他表記)Spleen injury

六訂版 家庭医学大全科 「脾臓損傷」の解説

脾臓損傷
ひぞうそんしょう
Spleen injury
(外傷)

どんな外傷か

 過去には、脾臓虫垂(ちゅうすい)と同様に罪の意識なくして摘出できる無益な臓器と考えられていました。しかし、脾臓の免疫学的役割が解明されてからは、脾臓損傷に対する治療はできるだけ脾臓を温存するような方法を選択すべきであるとする考え方に変化してきています。

 脾臓は手のひらの大きさしかありませんが、腹部の実質臓器の損傷のなかでは肝臓の損傷に次いで発生頻度が高く、約12%を占めています。

原因は何か

 脾臓は下部肋骨に囲まれているため、刺創(しそう)銃創(じゅうそう)によって損傷を受けることは少なく、多くは交通事故や転落外傷が原因になります。

 後者の発生要因としては、肋骨骨折端による損傷、前方からの外力による圧挫(あつざ)圧迫による組織の挫滅(ざめつ))などがあげられます。

症状の現れ方

 脾臓の損傷自体による特徴的な症状はほとんどみられません。左上腹部から左側胸部にかけての打撲痕(だぼくこん)、左横隔膜(おうかくまく)下にたまる血液の刺激による左肩痛、脾臓の内側に位置する胃粘膜の損傷による吐血などの間接的な症状・所見に加えて、出血性ショックによる血圧低下がみられるならば脾臓損傷が疑われます。

検査と診断

 前記の症状・所見に加えて、胸・腹部単純X線写真による左下部肋骨骨折、左横隔膜挙上、胃の圧排(あっぱい)像(血腫による左方に偏位)などがみられる時は脾臓の損傷を疑い、腹部超音波検査を行います。これにより脾臓の損傷を診断すると同時に腹腔内出血の程度も同時に把握します。

 もしも、輸液により血圧が安定するならば、腹部造影CTで、より詳細な損傷形態を把握することができます。

治療の方法

 輸液により血圧が安定すればCT検査を行い、造影剤が脾臓の外に漏れていないかどうかを観察します。造影剤が漏れていなければ保存的(安静と輸液・輸血)に経過を観察することができます。造影剤の漏れがみられる時は、患者さんを血管撮影室に移して、脾臓動脈塞栓術(コイルなどを用いて出血している動脈を詰めて止血する方法)を行います。

 大量輸液の投与によっても血圧が安定しない時には緊急手術を行うことになります。

 脾臓は遅発性破裂を起こしやすいので、非手術的治療を行ったときは、厳重に経過を観察しなければなりません。

葛西 猛

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「脾臓損傷」の解説

ひぞうそんしょうひそんしょう【脾臓損傷(脾損傷) Injury of Spleen】

[どんな病気か]
 胸の左側や上腹部を打ったり、圧迫されたり、刃物で刺されたり、銃で撃たれたりしたときにおこります。
 左上腹部の鋭い痛み、吐(は)き気(け)や嘔吐(おうと)をともなうこともしばしばです。
 脾臓(ひぞう)は血液の豊富な臓器で、損傷を受けると出血量が多くなり、出血性(しゅっけつせい)ショック(「腹部外傷」の出血性ショック)におちいって生命にかかわることが少なくありません。症状も、出血が少しずつ続けば遅れて出ます。
[検査と診断]
 症状からほぼ推察できますが、腹部X線撮影、超音波検査、CTなどで確認します。
[治療]
 出血量が少なく、血圧が正常で安定しているなど全身状態が良好であれば、輸液や輸血といった保存療法で経過を観察します。
 少し出血量が多いときは、脾動脈塞栓術(ひどうみゃくそくせんじゅつ)(コラム「脾動脈塞栓術」)が行なわれることがあります。
 血圧が低く、輸液をしても上昇しないなど全身状態が悪いときは、開腹し、出血を止める手術をします。
 脾臓を摘出すると、あとで脾摘後重症感染症(ひてきごじゅうしょうかんせんしょう)(敗血症(はいけつしょう)など)がおこることがあるといわれているので、脾臓は摘出せず、残すのが原則です。
 打撲(だぼく)や圧迫による損傷の場合、そのときは出血していなくても、受傷後、数日から1週間すると脾臓が破裂し、大出血になることがあります(遅発性破裂(ちはつせいはれつ))。このため、脾臓損傷の場合は、10日~2週間くらい入院して経過を観察することもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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