脾臓(読み)ひぞう(英語表記)spleen

翻訳|spleen

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

脾臓
ひぞう
spleen

腹腔の左側上部にあって,上方横隔膜下方は左腎臓,前方にはがあり,腹膜におおわれている。臓の長軸は第 10肋骨とほぼ平行線上にある。重さは約 90~120gで扁平な長楕円形を呈する。下面には,血管, リンパ管, 神経が出入りする脾門がある。外表面は腹膜につながる漿膜 (被膜) におおわれる。その漿膜は脾門から大網の前葉を経て胃の大彎 (胃脾間膜) と横隔膜下面 (横隔膜間膜) で脾臓を腹腔内固定している。脾膜は,脾臓の実質に入り,互いに吻合して,大きな網目による結合組織の立体網をつくる。これらは脾柱といわれ,脾門より脾臓に出入りする血管,リンパ管,神経が脾柱の中を伸びて分布している。脾柱の間は脾髄といわれ,白脾髄 (リンパ球の集団) と赤脾髄 (血液を満たした網状組織) がある。脾髄の基本構造は,リンパ節や骨髄などの構造と原則的に同じである。白脾髄の末端は膨大してリンパ小節となり,ここに胚中心が発達する。
白脾髄は脾柱とリンパ小節から構成され,後者はマルピーギ小体と呼ばれ,発育しつつあるリンパ球の集団体である。赤脾髄は静脈性洞様毛細血管である脾洞と,その間を満たす海綿状の細網組織の脾索あるいはビルロート索によって構成されている。
脾臓における血液の流れは,腹腔動脈から脾動脈→脾臓→脾静脈→門脈→肝臓へ流れる。脾臓の重量は内部に存在する血液量によって異なるが,200gをこえることはない。門脈の血量に障害が生じると, 脾臓はうっ血により腫大する。つまり脾臓は門脈の血量に左右され,門脈は消化機能との関係が密接であることから, 脾臓と消化機能は関連を有するといえる。
脾門より入った脾動脈は脾柱を脾柱動脈として走り, そして脾髄で脾髄動脈 (リンパ組織の鞘に包まれる) となる。脾髄動脈は中心動脈 (白脾髄のリンパ小節を通る) となり,さらに筆尖動脈 (内皮の筒) に連なる。この動脈の多くは細網組織からなる特殊な莢に包まれているので莢動脈ともいわれる。莢動脈も含めて筆尖動脈は直接赤脾髄の静脈洞へ連なる。それから,静脈洞は脾柱静脈→脾静脈 (脾門) となる。
脾臓は血球形成系の重要な一部分を占めている。また,人体の中で最も巨大なリンパ器官ともいうことができ,細網内皮系の一つとして疾病に対する防御機能をそなえている。いわゆる,細菌や異物を摂取したり,これらを無毒化するとともに,通過する血液やリンパ液をろ過する役目を果している。 (1) リンパ球の産生 白脾髄末端のリンパ小節にある胚中心で増殖するのは骨髄依存型 (Bリンパ球) で,免疫抗体産生細胞である。中心動脈周囲の鞘状に取囲むリンパ組織は主としてTリンパ球である。Tリンパ球は細胞免疫に関連しており,抗原を刺激,反応して増殖して活性化する。 (2) 赤血球の破壊 約4ヵ月の寿命をまっとうした赤血球は脾索や脾洞壁の大食細胞により破壊される。 (3) 生体防御 異物や細菌を大食細胞が除去する。また,血中の過剰の脂質を大食細胞が摂取し,たくわえる。赤脾髄は血液の貯蔵所であるが,多量の血液や運動時あるいは精神的緊張時には脾臓は収縮して貯蔵中の血液を放出する。
全身性の炎症および代謝疾患あるいは血液疾患でしばしば脾臓は腫大する。同時に,脾臓より分泌されるホルモン様物質が骨髄系細胞の成熟を抑制するため,脾腫があれば二次的に末梢血液要素が減少をきたす。脾臓は成人では生命維持に不可欠なものではない。脾臓の機能は他の臓器 (大部分はリンパ組織) によって代謝機能が行われる。しかし,脾臓切除は一時的な抗体産生の低下をきたし,潜伏性あるいは軽微な感染性の再発を促すことがある。

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百科事典マイペディアの解説

脾臓【ひぞう】

脊椎動物の造血・リンパ器官。哺乳(ほにゅう)類以外では主要な造血の場で,哺乳類では幼児期のみで,成体になると,造血機能は骨髄に移る。ヒトでは,腹腔左上部で横隔膜の下にあり,赤褐色。胃底や左腎に接する。成人で長さ10cm,幅6.5cm,厚さ3cmほどの大きさで,リンパ節に似た構造であるが,血液も出入する。被膜に包まれた内部には赤脾髄と白脾髄がある。赤脾髄には血管が分岐した脾洞が含まれ,白脾髄はリンパ小節からなる。赤脾髄では古くなった赤血球がこわされ,胎生期には造血も行われる。白脾髄ではリンパ球が産生される。その他血流中の異物を取り押さえる働きや,免疫に関連した働きがある。
→関連項目結腸脾腫リンパ系

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家庭医学館の解説

ひぞう【脾臓】

 脾臓とは、左上腹部の横隔膜(おうかくまく)の下に位置する重さ100~150gの臓器で、多量の血液が存在します。
 血液は、腹腔動脈(ふくくうどうみゃく)から分岐(ぶんき)した脾動脈(ひどうみゃく)から脾臓に入り、脾静脈(ひじょうみゃく)に出た後、肝臓へ血液を送るルートである門脈(もんみゃく)に注いでいます。
 脾臓のはたらきは、リンパ組織の1つとして、からだの防御機構をになうことと、古くなった血球の処理を行なうことです。

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世界大百科事典 第2版の解説

ひぞう【脾臓 spleen】

五臓六腑の一つに数えられ,英語spleenは脾臓が気力や感情の宿るところと考えられたことから転じて,〈不機嫌〉や〈憂鬱(ゆううつ)〉の意にも用いられる。腹腔内にある内臓の一つで,古くなった赤血球の処理,リンパ球の産出,免疫による生体防御などをつかさどる最大のリンパ系器官でもある。左側上腹部にあり,上方は横隔膜,下方は左腎臓に接し,前方に胃がある。大きさは成人で長さ約10cm,幅約6.5cm,厚さ3cm内外で,重さは約150g,老人では萎縮して小さいことが多い。

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大辞林 第三版の解説

ひぞう【脾臓】

脊椎動物のリンパ系器官。ヒトでは腹腔の左上部の後腹壁よりに横隔膜に接してある。赤血球の貯留、古い赤血球や血小板の破壊、リンパ球の産生などを行う。脾。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

脾臓
ひぞう

脾ともいう。腹腔(ふくくう)の左上部の横隔膜と左腎臓(じんぞう)との間に位置する臓器で、第9~第11肋骨(ろっこつ)の高さとなる。全体として楕円(だえん)板状で、日本人の場合、長さ約10センチメートル、幅約7センチメートル、厚さ約3センチメートル、重さ80~150グラムである。一般に女性のほうが男性に比べて軽い。脾臓は血管に富むため、外見上は暗紫色を呈している。後面はやや凸面で横隔膜に接し、これを横隔面という。前面は腹腔に面し、胃底、左腎、左結腸曲などが接触していることから、これを内臓面という。内臓面のほぼ中央部に脾動・静脈、神経が出入する脾門があり、この脾門の部分を境にして前方に胃面、後方に腎面がある。胃面と腎面との下端には左結腸曲や膵臓(すいぞう)尾部(膵尾)が接触する結腸面がある。脾門の部分を除いた脾臓の全面は、腹膜の続きである漿膜(しょうまく)に包まれている。漿膜の内側には結合組織からなる線維膜がある。漿膜と線維膜とをあわせて脾被膜とよぶ。線維膜の内面からは脾臓の内部に向かって結合組織が索状に進入するが、この索状組織を脾柱(ひちゅう)とよぶ。脾柱は脾実質内で分岐しながら互いに網の目をつくっている。脾臓に入る動脈は脾柱の中を通って分岐していく。この脾柱の網の目の内部を満たしているのが脾髄(ひずい)である。[嶋井和世]

脾髄

脾髄には白(はく)脾髄と赤(せき)脾髄とよばれる構造がある。白脾髄はリンパ組織で、細網組織(細網細胞と細網線維)が基本の構造となっているため、白っぽくみえる。白脾髄の中には直径0.2~0.7ミリメートルの脾リンパ小節(リンパ球の集団で、イタリアの解剖学者マルピーギM. Malpighiにちなみマルピーギ小体ともいう)がある。このリンパ小節内のリンパ球はBリンパ球で、免疫(めんえき)抗体産生細胞となる。脾リンパ小節の中心には脾柱内から分かれてきた動脈の枝が通り、これを中心動脈とよぶ。中心動脈の周囲には動脈を鞘(しょう)状に取り囲んでいるリンパ組織があり、この中のリンパ球は主としてTリンパ球である。Tリンパ球は細胞性免疫に関与しており、抗原の刺激に反応して増殖し、活性化する。赤脾髄とは白脾髄以外の部分をいい、血管に富み、外見的にも赤褐色にみえる。赤脾髄は静脈性洞様血管である脾洞と、その間を埋めている脾索(細網組織)とで構成されている。脾洞の太さは20~50マイクロメートルで、迂曲(うきょく)して走っている。脾洞の壁をつくっている内皮細胞相互の間には比較的広い間隙(かんげき)があり、血球(とくに赤血球)が自由に通過する。血液は赤脾髄の中で比較的長く停留するが、その間に血液中の異物をとらえて処分するほか、老化し、破壊された赤血球を処理する。
 脾索の細網組織の網の目の中には赤血球のほか、形質細胞、大食(たいしょく)細胞、リンパ球などが存在する。大食細胞は脾細胞ともよばれ、活発な食作用を行い、老化赤血球、破壊された血球成分などを取り込む。また、大食細胞は黄褐色のヘモジデリンを含んでいるが、このヘモジデリンは肝臓に運ばれると胆汁色素を生合成する材料となる。ヒトの場合、脾臓は胎生期には造血器官として赤血球や他の血球を生産するが、生後は白脾髄で行われるリンパ球の生産だけとなる。赤脾髄は血液の貯留所であるが、多量の出血や運動時、あるいは精神的緊張時には、脾臓は収縮して貯蔵中の血液を放出する。脾臓の疾患では、とくにマラリア、腸チフス、白血病などにかかったとき、脾腫(ひしゅ)のおこることがある。よく知られているのが、バンチ病(イタリアの医師バンチG. Bantiにちなむ)の巨大脾腫である。
 なお、古くから漢方医学の「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」に含められた脾とは膵臓のことで、現在の脾臓とは異なっている。膵臓の語は、杉田玄白(げんぱく)らが『解体新書』をつくったとき初めて訳語として登場したものである。[嶋井和世]

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