日本大百科全書(ニッポニカ) 「英伸三」の意味・わかりやすい解説
英伸三
はなぶさしんぞう
(1936― )
写真家。千葉市生まれ。1960年代以降、主に日本の社会や産業構造の変化の過程を独自の視点で撮りつづけてきた。中学卒業後、株式会社ソニーに勤務しながら東京都立港工業高校の定時制コースに学び、ついで東京フォト・スクール(現東京綜合写真専門学校)夜間部へ入学、同校を1960年(昭和35)に卒業。翌年ソニーを退社し、フリーランスの報道カメラマンとして活動を始める。
63年アメリカからの脱脂粉乳大量輸入と、それに伴って不振に陥った国内の酪農農家の状況を撮影。64年、全国数か所の盲学校などを取材撮影した一連の作品を初個展「盲人――その閉ざされた世界」(富士フォトサロン、東京)で発表する。同展および長野県伊那市周辺に取材し、農家の主婦たちがエレクトロニクス産業の下請けに従事する姿を記録した「農村電子工業」(『アサヒカメラ』誌64年9月号掲載)で日本写真批評家協会新人賞受賞。以来、近代化農政のもとで構造的な変化を遂げていった日本の農業のありようを、農村過疎化、出稼ぎ、農薬大量撒布、米の減反など、さまざまな問題に焦点を当て撮影しつづける。また60年代後半から、町工場の労働者や、開発による自然破壊などのテーマにも取り組み、数多くのルポルタージュ作品を総合誌、写真雑誌などに発表。
71年刊の写真集『農村からの証言』で日本ジャーナリスト会議奨励賞を受賞。75年に日本写真家協会の企画により開催された「日本現代写真史――終戦から昭和45年まで」展(西武美術館、東京)で編纂委員を務める。82年、桑原史成(しせい)との「ドキュメント二人展」(ニコンサロン、東京)を開催し、同展で伊奈信男賞受賞。83年、冷害に見舞われた東北地方の農民たちの日常を描いたルポルタージュを中心に写真集『偏東風(やませ)に吹かれた村』を上梓。同年刊の写真絵本『みず』で、ボローニャ国際図書展グラフィック賞受賞。60年代以降の自作を再編集した写真集として、89年(平成1)に『日本の農村に何が起こったか』、90年に『一所懸命の時代』を相ついで刊行。92年、日中国交正常化20周年を記念して中国の写真家との交流を企画、上海(シャンハイ)市で撮りおろしによる即興作品展を開催する。以後、上海を中心に中国・江南地方をたびたび取材し、街や人々の姿を撮影しつづけている。
[大日方欣一]
『『農村からの証言』(1971・朝日新聞社)』▽『『1,700人の交響詩――横須賀市立池上中学の教育記録』(1978・高校生文化研究会)』▽『『天地無用』(1982・晩聲社)』▽『『偏東風に吹かれた村』(1983・家の光協会)』▽『『英伸三が撮ったふるさときゃらばん――人の住むところどこにでも劇場ができる』(1989・晩聲社)』▽『『日本の農村に何が起こったか』(1989・大月書店)』▽『『一所懸命の時代』(1990・大月書店)』▽『『町工場鋼彩百景――英伸三鉄を撮る』(1995・日本能率協会マネジメントセンター)』▽『『鹿児島発農れんれん』(1997・日本カメラ社)』▽『英伸三写真・丸木政臣文『子どもたちの四季』(1979・三省堂)』▽『英伸三写真・長谷川摂子文『みず』(1983・福音館書店)』▽『英伸三写真・小川国夫文『新富嶽百景』(1984・岩波書店)』▽『英伸三・桑原史成・中村梧郎著『写真に何ができるか』(1986・大月書店)』▽『英伸三写真・金丸弘美文『えんや――写真集・唐津くんち』(1992・家の光協会)』