日本大百科全書(ニッポニカ) 「葯培養」の意味・わかりやすい解説
葯培養
やくばいよう
人工培地を用いて葯を培養することをいい、この培養を通じて葯内にある花粉粒から直接に胚(はい)状体を誘発させ、あるいは、いったんカルス化ののち再分化させて新生植物体を育成することができる。これら新生植物体は原則的には花粉粒と同じ染色体数をもつ半数体である。半数性植物を倍加すると遺伝的に純粋の二倍体となり、遺伝や育種の基礎および応用的研究はもちろん、実際の育種のうえで利用価値が非常に高い。とくに、雑種性のきわめて高いいも類、果樹などの栄養系繁殖作物からの純粋種育成や、雑種に形成される多様な組み替え型染色体をもった花粉から得られる純系の育成には大きな期待がかけられており、タバコの育種では実用化された。
葯培養の成否は、供試植物の種類、培地の種類(ムラシゲとスクーグMurashige & Skoog、ニッチNitschなどの基本培地と植物ホルモンその他の添加物質の種類と濃度)、花粉の発育のステージ(4分子期、1核期など)、培養条件(25℃前後、明暗、その他)などで決まる。花粉粒由来の個体のなかには半数体のほかに、自然発生の二倍体や突然変異体なども含まれる。また、葯培養から得られる新生個体のなかには葯の組織細胞由来の個体もあるので、注意が必要である。
[飯塚宗夫]