精選版 日本国語大辞典 「培養」の意味・読み・例文・類語
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動植物体あるいは動植物の胚(はい)より切り離された器官、組織、細胞などを人工的な環境のもとで生かし続け、発生あるいは増殖させたりすること。また微生物や原生動物の遺伝的に単一な集団を維持、増殖することも培養に含められる。微生物の培養では、他の種を混じえず一種だけ培養することを、純粋培養あるいは純培養とよぶ。培養は癌(がん)細胞を含め各種の組織細胞の生理・生化学的特質、細胞分化の機構、器官や組織の発育と細胞増殖、組織間の相互作用、組織構築の原理などの研究や、また薬物に対する細胞の反応性の検査、あるいは発生工学、遺伝工学などの基礎技術として、生物学、医学、薬学、農学で広く用いられている。培養は、その対象によりそれぞれ特有の方法が講じられているため、細胞培養、組織培養、器官培養と区別されるのが普通である。いずれにせよ培養の成功は、培養される対象が本来置かれていた環境にできるだけ近い環境を再現できるか否かによる。このため、シャーレ、フラスコをはじめ培養に使用される器具などは、細菌類の汚染を防ぐためすべて無菌化され、温度、光、気相(酸素、二酸化炭素の分圧など)も細心・緻密(ちみつ)な管理のもとに置かれ、細胞などが直接触れる液的環境は、体内での環境になるべく近いようにくふうされている。
[竹内重夫]
動物細胞はすべて、さまざまな物質群を溶かしているリンパ液あるいは血リンパ液中で生活しているので、これとよく似た組成をもつ液体がくふうされ、培養液(培地)として使用される。培養液は総じて細胞と浸透圧が同じ(等張)であること、適当な割合で無機塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなど)を含むこと、水素イオン濃度(pH)を7.2~7.4に維持できること、ブドウ糖をはじめアミノ酸類、ビタミンなど各種の栄養をバランスよく含むことなどを基本条件としている。このほか、培養液中に各種ホルモン、成長因子などが加えられることがある。
植物細胞は細胞壁があり光合成により栄養を自給できるので、植物組織の培養には少量の無機塩類と簡単な窒素化合物を含む組成の単純なクノップ液などが、植物細胞の培養にはビタミンなど他の成分も加えた、より複雑な培養液(ムラシゲ‐スクーグ、リンスマイヤ‐スクーグなどの研究者が考案したもの)が用いられる。
培養液は濾過(ろか)され無菌化して使用されるが、培養中の雑菌などによる汚染を防ぐためペニシリン、ストレプトマイシンなどの抗生物質が加えられるのが普通である。このように化学的性質がはっきりしている薬品類だけでつくられた培養液を合成培養液とか合成培地とよび、生物体から抽出し化学的な組成が不明の天然培地と区別する。現在までに、多くの研究者によりさまざまな優れた合成培地が処方されているが、完全に生体内の環境を再現しているものはまだできていない。細菌、植物の器官や組織、両生類の胚組織などは合成培地で培養可能な場合が多いが、動物の細胞や組織などは、合成培地のみで培養できる例はごくまれで、多くは5~20%程度の血清などを加えるのが普通である。このような血清を含んだ培養液でも、正常な組織から取り出したばかりの細胞の性質、機能をそのままに培養し続けることはむずかしい。このため、継代培養され商品化されている細胞の多くは、哺乳(ほにゅう)動物の癌化した組織か、胚の組織から得られたものである。このように継代培養される培養細胞はなにか特別の性質をもつ細胞として、正常な組織細胞から区別されることがある。胚の細胞でも、中胚葉起源の繊維芽細胞は、ほかの組織細胞に比べて培養細胞になりやすい傾向がある。動物の細胞培養では、培養中その代謝作用により培養液が酸性になるのを防ぐため、二酸化炭素と重曹による緩衝作用を利用することが多く、このため空気中の二酸化炭素を5~10%のレベルに保つ培養装置が用いられる。
組織培養、器官培養にはさらに別な条件が要求される。組織、器官を構成する数種の細胞の三次元的な配列を乱さず、組織、器官の統一性を維持する支持体が必要である。このため、培養液に寒天を加え適当な固さにしたものや、凝固した血漿(けっしょう)など固形培地とよばれるものを使うことがある。また、レンズペーパー(長いセルロース繊維を緩く漉(す)いたもの)、メンブランフィルター(セルロースとセルロースアセテートの混合物で、小孔が多数ある)、コラーゲン・ゲル(動物結合組織にあるタンパクのコラーゲンをゲル化したもの)などを支持体として用い液体培地内で培養されることもある。この際、血管による栄養補給のできない組織や器官片の内部に、つねに新鮮な培養液を供給し老廃物を除去するため、培養液が培養片の周囲を流れるように、培養中の試験管などを回転させる回転培養法、あるいは高速回転培養法などが採用されることがある。また、酸素の十分な供給のため酸素分圧を高めた空気を流すようなことも行われる。しかし、これらのくふうにもかかわらず、動物体から切り出した組織なり器官の培養は十分な成功を得るまでに至っていない。一方、植物の細胞では、単離された1個の細胞を培養、増殖させ、それから新しい個体、すなわちクローン植物をつくりあげることに成功している。最近いろいろな性質をもつ細胞を融合させ細胞の雑種をつくりだす技術が細胞工学の一手段として利用されている。たとえば培養細胞の増殖しやすい性質を、特別な抗体をつくりだす細胞に導入して大量に増殖させ、単一の抗体を入手するのに利用するなどがその例である。
[竹内重夫]
『岡田節人著『試験管のなかの生命――細胞研究入門』(岩波新書)』▽『ミシェル・シゴー著、水野丈夫訳『発生のしくみ』(白水社・文庫クセジュ)』
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…また,生産物の販売を目的とする園芸を生産園芸,趣味として行う園芸を趣味園芸,または家庭園芸という。園芸という言葉は英語のhorticultureの訳語で,日本では1873年に出版された英和辞書で用いられたのが初めである。horticultureとはラテン語のhortus(囲うこと,または囲まれた土地の意)とcultura(栽培の意)に由来し,17世紀以降使われるようになった言葉である。…
…教養とは,一般に人格的な生活を向上させるための知・情・意の修練,つまり,たんなる学殖多識,専門家的職業生活のほかに一定の文化理想に応じた精神的能力の全面的開発,洗練を意味する。英語のculture(耕作・養育の意),ドイツ語のBildung(形成・教化の意)の訳語である。前者はふつう〈文化〉と訳される語であるが,たとえばキケロが〈cultura animi(魂の耕作・養育)が哲学である〉と言った場合,またこれを受けて中世で広くcultura mentis(心の耕作・養育)の語が用いられた場合の〈精神的教化・教育〉の意義は,この訳語〈教養〉によってよく示されている。…
…日本語の〈文化〉という語は〈世の中が開けて生活水準が高まっている状態〉や〈人類の理想を実現していく精神の活動〉を意味する場合と,〈弥生文化〉というように〈生活様式〉を総称する場合とがある。社会科学の諸分野では第2の意味で〈文化〉という概念を使用するのが普通であるが,この意味における〈文化〉についても定義は多様であり,時代的な変化も見られる。
【文化人類学からみた〈文化〉】
文化人類学における文化の定義の中で最も古典的なものは,E.B.タイラーが《原始文化》(1871)の冒頭で示した定義である。…
…しかし多くの生薬は中国からの輸入品が安価なため栽培が成り立たない。 一方下等植物,つまり細菌類やペニシリンで有名なカビ類はタンクで培養され,効率よく単一物質を生産する技術が発達している。これを高等植物に応用したものが組織培養である。…
※「培養」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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