薬物過敏症(読み)やくぶつかびんしょう

改訂新版 世界大百科事典 「薬物過敏症」の意味・わかりやすい解説

薬物過敏症 (やくぶつかびんしょう)

常用量もしくはそれ以下の薬物投与で誘発される,生体にとって望ましくない異常な過敏反応をいう。被投与者の体質上の異常が根底にあって発生する場合が多い。19世紀末にE.vonベーリングが,動物に細菌毒素をくりかえし注射していくと,ときに致死量以下のごく少量の毒素の注射で激しいショック症状をおこすことを観察し,それは動物がその毒素に対して過敏になっているためと考え,その状態をhypersensitivity(過敏状態。ドイツ語ではÜberempfindlichkeit)と名づけた。やがて,ベーリングが観察した現象は毒素を抗原としたアレルギー反応にもとづくものであることが判明した。現在,欧米ではhypersensitivityはアレルギーとほぼ同義語に用いられる場合が多い。しかし,薬物による異常な過敏反応に関しては,その発症機序は一様でない。大別して,アレルギー機序にもとづく場合(薬物アレルギーペニシリンショックはその代表例)と,代謝異常などのアレルギー以外の機序にもとづく場合がある。この両者区別は判然としない場合が多いという事実にもとづいて,日本ではこれらを一括して薬物過敏症と呼んでいる。

 薬物過敏症の症状は多彩で,皮膚症状と,皮膚以外の臓器,組織を反応の場とする症状に分けられる。発生頻度が高いのは皮膚症状で薬疹と呼ばれる。薬疹の中では,剝脱(はくだつ)性皮膚炎型薬疹,中毒性表皮壊死症,多形滲出性紅斑重症型などが重症である。皮膚以外の臓器で発生する症状としては,ショック,喘息(ぜんそく)様呼吸困難,血清病型反応,薬物熱,多発動脈炎,紫斑貧血白血球減少,血小板減少,黄疸腎不全などがある。

 薬物過敏症の治療の原則は,なるべく早く原因となった薬物の投与を中止し,それぞれの過敏症状に対して適した対症療法を実施することである。ショック,呼吸困難は,急激に発症し進行も速く,生命が危険になる場合も多いので,循環不全状態,気道閉塞状態への救急処置の実施がたいせつである。その他の過敏症状については,一般に副腎皮質ホルモン剤の投与が有効なことが多い。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の薬物過敏症の言及

【過敏症】より

… 一般にいわれている免疫学的な過敏症は,生体内で抗原(薬物でも,食物中の特殊な成分や花粉などでもよい)に対して抗体が結合し,抗原・抗体結合物ができて,正常な生体ではあらわれない異常反応(アレルギー)を起こす場合をいい,この場合,抗原と抗体とはそれぞれ特異的に反応(A抗原には抗A抗体)するが,主として抗体(免疫グロブリン)の性質,補体の関与の有無などによって4型(ときに5型)に分けられる(これらの詳細については〈アレルギー〉の項目を参照されたい)。薬物過敏症は,薬剤が抗原として働く免疫学的機序によるものと薬理作用によるものとを区別しがたいことが多い。過敏症をあらわす生体側には,その抗原に対する抗体を産生しやすいこと,抗原抗体反応によって出現してきたもの(化学伝達物質など)に対する反応性が亢進していることが前提条件となっているが,個人差があり,これには遺伝的因子が関与している可能性が強い。…

※「薬物過敏症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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