ペニシリン系抗生物質の投与により誘発され,急激な血圧の低下を伴う組織の循環障害(低酸素状態)をいう。薬物アレルギーの一つ。ペニシリンアレルギーの最も重症型で,多くの場合ペニシリン投与後数分以内に発生する。虚脱感,四肢末端部のしびれ感,冷や汗,皮膚蒼白,胸内苦悶,腹痛,呼吸困難などがおもな自覚症状で,重症の場合は意識喪失に至る。
アレルギー反応には,一般にⅠ型からⅣ型までの4種の型の反応がある。ペニシリンショックはⅠ型(アナフィラキシー型)反応にもとづくもので,組織,臓器の組織肥満細胞の膜面に結合しているペニシリンに対するIgE型抗体の2分子以上を,抗原であるペニシリン製剤あるいはペニシリンの代謝物が橋渡しするのが反応のはじめのステップである。その結果,ヒスタミン,SRS-A(slow reacting substance of anaphylaxis)など生物活性の強い化学物質が細胞外に遊離される。これらの化学物質の作用による小血管壁の透過性亢進,および平滑筋の攣縮(れんしゆく)にもとづく心拍出力の低下,循環血液量の減少,アシドーシスなどが,循環不全の原因となる。一方,気管支の攣縮,気道粘膜の浮腫,気管支の分泌過多は,呼吸困難,窒息死の原因となる。
ペニシリンは,薬物アレルギーことに薬物ショックを誘発しうる代表的な薬物である。その発生頻度は,各国での調査成績によると,ペニシリンの投与を受けた症例の0.015~0.04%で全身性のアナフィラキシー反応が誘発され,そのための死亡者発生率は0.002%内外と推定されている。
ペニシリンショックの予知法としては皮膚反応が優れ,広く実施されている。治療の原則は,他の原因によるアナフィラキシーショックの場合と同じく,可能なかぎり迅速に循環不全,呼吸困難に対する救急処置を実施し,生体の重要臓器ことに中枢神経系における低酸素状態にもとづく非可逆的な障害(脳障害)の発生を防止することが最もたいせつである。
→アレルギー →薬物過敏症
執筆者:村中 正治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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【抗生物質の副作用】
おもな副作用には次のようなものがある。(1)アレルギー反応(薬剤過敏症) 代表的なものは,ペニシリンなどβラクタム抗生物質で起こるショック(いわゆるペニシリンショック)である。1956年東大教授尾高朝雄が歯の治療の際に用いられたペニシリン注射でショック死し,世の注目をあびた。…
…(図3)
[作用機序,副作用]
β‐ラクタム抗生物質は,細菌の細胞壁の合成を阻害して菌を殺すので,細胞壁をもたないヒトなどの細胞には作用せず,したがって毒性はきわめて少なく,すぐれた治療薬である。しかし副作用として,きわめてまれ(10万人に10~40人)であるがペニシリンショックと呼ばれる即時型アレルギー反応がおこり,まれに死に至ることもある。15分以内に,口腔内違和感,しびれ感,冷汗,悪心,胸内苦悶,心悸亢進,呼吸困難などがおこる。…
※「ペニシリンショック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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