内科学 第10版 の解説
血液疾患における新しい展開(血液疾患)
白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍の病態解析や治療も大きく進んでいる.最近のトピックスは,網羅的遺伝子解析により,各造血器腫瘍に特徴的な遺伝子発現プロファイルを示すクラスターの存在が明らかにされたことである.さらに,新たな原因遺伝子や予後関連遺伝子の同定もなされている.たとえば,染色体変異を認めない急性骨髄性白血病(AML)においても,nucleophosmin 1 (NPM1),FLT3,C/EBPa,MLL,NRASなどの変異が同定されているが,NPM1の異常を有する白血病は抗癌薬への反応がよく予後良好遺伝子とされている.また,骨髄異形成症候群(MDS)の病態についても解析が進み,DNAやヒストンのメチル化などに関与するエピジェネティック関連遺伝子群TET2,ASXL,EZH2の関与が指摘されている. 治療面では,特定の分子を標的とする「分子標的薬」の重要性が増している.分子標的薬は大きく小分子化学物質と高分子物質に分類することができる.小分子化学物質としては慢性骨髄性白血病(CML)の原因遺伝子BCR-ABLチロシンキナーゼ活性を標的とした経口治療薬イマチニブ(imatinib)などが含まれる.イマチニブ投与によりCMLの8〜9割の患者が長期生存できるという画期的薬剤であるが,すでにイマチニブ耐性,不応を克服すべく第2世代,第3世代のチロシンキナーゼ阻害薬が開発されている.高分子物質としては,リツキマシブ(rituximab,CD20に対する抗体薬)などの抗体医薬があるが,現在多くの抗体薬が開発されており,その治療効果が期待されている.[金倉 譲]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報