血液疾患における新しい展開

内科学 第10版 の解説

血液疾患における新しい展開(血液疾患)

 造血の仕組みや各種血液疾患の病態については,日々新たな知見がもたらされている.そのなかでも,最近の鉄代謝研究は著しい進歩をとげている.生体内鉄代謝の大きな特徴は,積極的に鉄を体外に排泄する機構がなく,体内で半閉鎖的な回路を形成することである.つまり,鉄の吸収機構に問題が生じ積極的に鉄を取り込む,あるいは輸血などにより大量の鉄が体内に入ると,容易に鉄過剰となり肝臓,心臓,膵臓などの臓器障害が引き起こされる.鉄代謝には,ヘプシジン,フェロポルチン,divalent metal transporter 1,へファスチンなどの多く分子が関与する.特に,肝臓で産生されるペプチドホルモンであるヘプシジンは,生体内において鉄代謝を負に制御する中心的分子である.ヘプシジンの発現が低下した場合,腸管からの鉄吸収や網内系からの鉄放出が促進され,血清鉄や組織鉄量が増加しヘマクロマトーシスの要因となる.一方,炎症性サイトカインのインターロイキン6(IL-6)刺激によりヘプシジンは増加し,腸管からの鉄吸収と網内系からの鉄放出が抑制され炎症性貧血が引き起こされる.
 白血病悪性リンパ腫などの造血器腫瘍の病態解析や治療も大きく進んでいる.最近のトピックスは,網羅的遺伝子解析により,各造血器腫瘍に特徴的な遺伝子発現プロファイルを示すクラスターの存在が明らかにされたことである.さらに,新たな原因遺伝子や予後関連遺伝子の同定もなされている.たとえば,染色体変異を認めない急性骨髄性白血病(AML)においても,nucleophosmin 1 (NPM1),FLT3,C/EBPa,MLL,NRASなどの変異が同定されているが,NPM1の異常を有する白血病は抗癌薬への反応がよく予後良好遺伝子とされている.また,骨髄異形成症候群(MDS)の病態についても解析が進み,DNAやヒストンのメチル化などに関与するエピジェネティック関連遺伝子群TET2,ASXL,EZH2の関与が指摘されている. 治療面では,特定の分子を標的とする「分子標的薬」の重要性が増している.分子標的薬は大きく小分子化学物質と高分子物質に分類することができる.小分子化学物質としては慢性骨髄性白血病(CML)の原因遺伝子BCR-ABLチロシンキナーゼ活性を標的とした経口治療薬イマチニブ(imatinib)などが含まれる.イマチニブ投与によりCMLの8〜9割の患者長期生存できるという画期的薬剤であるが,すでにイマチニブ耐性,不応を克服すべく第2世代,第3世代のチロシンキナーゼ阻害薬が開発されている.高分子物質としては,リツキマシブ(rituximab,CD20に対する抗体薬)などの抗体医薬があるが,現在多くの抗体薬が開発されており,その治療効果が期待されている.[金倉 譲]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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