ヒストン(読み)ひすとん(英語表記)histone

翻訳|histone

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒストン」の意味・わかりやすい解説

ヒストン
ひすとん
histone

真核細胞の核内DNAと結合した複合体(ヌクレオヒストン)として存在する塩基性タンパク質で、構成アミノ酸としてはリジンおよびアルギニンが多い。通常、5種類の分子種(H1,H2A,H2B,H3,H4)に分けられる。ヒストンの一次構造(アミノ酸配列)は生物種による違いが非常に少なく、どの真核生物でもその役割にはほとんど差がなく、一次構造が強く保存されてきたと考えられる。なお、ある種の魚類鳥類の成熟精子核には、ヒストンのかわりにプロタミンが含まれ、ヌクレオプロタミンとよばれる。

 ヒストンには塩基性アミノ酸残基が多数含まれているので、リン酸基をもつDNAと結合しやすい。ヒストンは限りなく長いDNA分子をうまく畳み込んで核内にきっちりと収納するために使われている。ヒストンH2A,H2B,H3,H4が各2分子ずつ集合したヒストン八量体にDNAが左巻きに二回りしたものをコア粒子とよび、コア粒子にH1が1分子結合したものをヌクレオソームとよぶ。長いDNAはまず数珠(じゅず)つなぎになったヌクレオソームという形で、約10分の1の長さにまとめられる。それがさらに螺旋(らせん)状に巻かれて約4分の1の長さになり、それが折り畳まれてクロマチン染色質)という構造をとっている。細胞分裂時にはクロマチンは棒状の構造をとり、クロモソーム(染色体)となる。

 また、ヒストン各分子中の特定の位置のアミノ酸残基の側鎖アセチル化メチル化リン酸化など多様な修飾を受けている。これによってクロマチンの構造等に変化が生じ、遺伝子の情報発現が調節される。このようなヒストンの化学修飾に基づく調節現象は個体発生後に行われるもので、遺伝子の塩基配列の変更等を伴わない。エピジェネティック(遺伝子以外という意味)な調節といわれる。ヒストンに加えられた各種の修飾は、遺伝コードとは別のタイプの情報をもたらすので、ヒストンコードとよばれている。

[笠井献一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒストン」の意味・わかりやすい解説

ヒストン
histone

主として核内にある塩基性の蛋白質。折れ曲りの少いペプチド鎖で,真核生物のデオキシリボ核酸 DNAにイオン結合をしており,ヒストンがなんらかの機作で脱結合している部分の DNAは,遺伝子としての機能を果すものと考えられている。分子量約 2.1万~1.5万の数画分に分けられ,それぞれアルギニン,リジンなどの含量に差がある。少くともそのうちのある画分では,ネズミと植物 (マメ科) というふうに系統がかけ離れていても,アミノ酸の並び順は酷似しているなど,進化に際して非常に変化しにくいもののようである。魚類の精子核中のプロタミン類などのように,ヒストンの代りに他の塩基性蛋白質を含む核もある。

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