生体内において免疫機能に関するタンパク質(抗体)を利用した医薬品。「抗体薬」「抗体医薬品」とも称される。
抗体は生体防御に寄与するタンパク質であり、免疫グロブリンともよばれる。身体には、生体内に病原体などの異物(抗原)が侵入すると、その異物に結合する抗体をつくり、異物を無毒化する作用(免疫機能)がある。抗体医薬は、病気の原因となる異物に対する抗体を人工的に作製したものであり、生体内に注入することで、病気の予防または治療に効果を発揮する。
抗体医薬は、おもに遺伝子組換え技術などのバイオテクノロジーにより作製され、生体内の抗体に近い構造を有し、かつ、1種類の抗体は特定の抗原だけに作用することから、その抗原をもたない他の組織や細胞に作用することは少なく、安全性が高いことが特徴といえる。しかし一方で、バイオテクノロジーなどを用いるため高コストであること、高分子のタンパク質であるため経口投与ができないなどの欠点も有している。
[北村正樹 2023年5月18日]
抗体医薬の始まりは、1975年、ケーラーとミルスタインにより、マウスモノクローナル抗体作製技術が確立され、疾患関連分子に対して特異的な結合能をもつ抗体が人工的に作製されたことによる。その後、モノクローナル抗体に対する免疫原性(体内で免疫反応が引き起こされる性質)を低減したり、血中濃度の維持を可能とする技術(キメラ型抗体・ヒト化抗体・ヒト抗体の作製)が開発されたことで、抗体医薬の実用化がいっそう現実的になっていった。
世界初となる抗体医薬としては、1986年、T細胞表面に存在する膜タンパク質であるCD3受容体を標的とした免疫抑制薬「ムロモナブ-CD3」(商品名:オルソクローンOKT3)が臓器移植患者における急性拒絶反応の抑制に対する適応で承認され、日本を含む世界各国で使用されてきた(なおその後、医療技術の進歩により急性拒絶反応の軽減が図られたこと、さらに副作用等の理由から、本薬は現在では販売中止となっている)。
日本では、2008年(平成20)、国産初となる抗体医薬インターロイキン-6(IL-6)モノクローナル抗体の抗リウマチ薬「トシリズマブ」(商品名:アクテムラ)が関節リウマチの適応で承認された(その後、全身型若年性特発性関節炎、サイトカイン放出症候群、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)による肺炎などにも適応が追加されている)。
現在販売されている抗体医薬は、がんと自己免疫疾患に用いられるものが多いが、そのほか、日本を含む世界各国で、感染症、眼疾患、骨疾患、中枢疾患、希少疾病、代謝疾患に対する治療にも使用されている。
[北村正樹 2023年5月18日]
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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