ゲーテの晩年の詩集。1819年刊。〈うたびとの書〉〈ハーフィズの書〉〈愛の書〉など12の書から成る。〈西東詩集のよりよき理解のために〉,ゲーテはみずから〈注解と論考〉という大きな論文を添えた。彼は1772年23歳のときに,すでにコーランのドイツ語訳を読み,賛歌〈マホメットの歌〉(1773)を未完の劇詩のために書いたり,99年にボルテールの戯曲《マホメット》を翻訳したりしていたが,1814年にペルシアの詩人ハーフィズのハンマー・プルクシュタル訳を読んだことから詩想をかきたてられ,同じ頃に知り合ったマリアンネ・ウィレマーに対する愛から,相聞歌のかたちで多くの詩を書いた。1813-15年にはナポレオンに対する解放戦争があったり,16年6月には妻のクリスティアーネが病没するなど,ゲーテの身辺は平穏ではなかった。このような時期に彼はあえて精神的な〈遁走Hedschra(ヒジュラ)〉を試み,永遠に変わることのない人間性の諸価値を歌ったのである。
執筆者:木村 直司
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