覚束ない(読み)おぼつかない

精選版 日本国語大辞典の解説

おぼつか‐な・い【覚束ない】

〘形口〙 おぼつかな・し 〘形ク〙 (「おぼ」は、ぼんやりした、不明確な状態を表わす。「覚束」はあて字。古くは「おほつかなし」) 対象の様子がはっきりせず、つかみどころのないさまをいい、また、そのためにおこる不安な気持を表わす。
① (景色などが)ぼんやりして、はっきりしない。ぼうっとしてよく見えない。
※万葉(8C後)一〇・一九五二「今夜(こよひ)の於保束無(オホつかなき)に霍公鳥(ほととぎす)鳴くなる声の音の遙けさ」
※源氏(1001‐14頃)蛍「夕闇すぎて、おぼつかなき空の気色の曇らはしきに」
② (対象の様子がはっきりせず)気がかりだ。不安だ。心細い。頼りない。もどかしい。
※万葉(8C後)八・一四五一「水鳥の鴨の羽色の春山の於保束無(オホつかなく)も思ほゆるかも」
※平家(13C前)二「幼き人々、いかなる目にかあふらむと、思ひやるにもおぼつかなく」
③ 疑わしい。不審である。また、不確かである。現代では、多く物事がうまくいきそうにない、しっかりしていないの意に用いる。
※蜻蛉(974頃)上「過ぎにし年、月ごろの事もおぼつかなかりければ」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「覚束(オボツカ)ない手振りでシャツの綻を縫合はせてゐた」
※園遊会(1902)〈国木田独歩〉一「この分では到底出席覚束(オボツカ)なしと」
④ 疎遠で相手の様子がわからない。訪れがない。無沙汰である。うとうとしい。
※蜻蛉(974頃)下「それも著(しる)く、その後おぼつかなくて八九日許(ばかり)になりぬ」
⑤ (会わずにいる状態がもどかしく)待ちどおしい。会いたい。
※枕(10C終)六三「やがてもろともに率(ゐ)ていきて、昼のほどのおぼつかなからむことなども、言ひ出でにすべり出でなんは」
[語誌](1)「おぼ」は「おほほし」などの「おほ(おぼ)」で、「つか」は「あはつか」「ふつつか」の「つか」と同じく状態を表わし、「ない」は甚しいの意を表わす。
(2)「ない」を打消の助動詞と誤り、「おぼつか」を「おぼつく」という動詞の活用形と考えたための誤用も生じた。尾崎紅葉「多情多恨」に「おぼつきそうもない」の例が見え、昭和三〇年代になると中野重治が指摘しているように、「おぼつかぬ」などの形も見られるようになる。
おぼつかな‐が・る
〘他ラ五(四)〙
おぼつかな‐げ
〘形動〙
おぼつかな‐さ
〘名〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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