改訂新版 世界大百科事典 「観客団体」の意味・わかりやすい解説
観客団体 (かんきゃくだんたい)
古来,演劇上演には観客がつきものであり,観客との対話がつねに舞台を活性化している。しかし,ルネサンス以降,ことに17~18世紀から,俳優が職業化し,舞台が商品化して,観客が入場料を払うようになってから,あらためて観客の問題は意識的に俎上(そじよう)にのせられるようになった。19世紀に入り,営利事業化がいよいよ進むと,観客の側,興行の側ともどもから,実験的あるいは非営利的作品の上演や,レパートリー・システムの推進など,演劇芸術の擁護と発展を願いつつ,経済的に相互を利する観客の組織化が目だつようになり,各種の観客団体が生まれるにいたった。なかでも19世紀末ドイツに誕生した強大な組織〈民衆劇場〉や,20世紀に入っては1950年代に隆盛だったパリの〈国立民衆劇場(TNP)〉の熱烈な〈民衆演劇友の会〉などが著名で,上記のような目標実現に大いに貢献した。なお,形としていうと,前者は日本の〈労演〉など,後者は新劇の大劇団の後援会,友の会などの組織に相当する。こうした伝統は世界的に現在も存続するが,今日では観客団体も多様化し,その多くが興行,観客の双方にとって経済的に有利なだけといった消極的な互助組織になっているのもまた事実である。観客の創造的な生きた組織化,とりわけ大きな観客団体のそれは今日ますます困難になっている。大衆社会の構造的変化によるものでもあるし,労働組合などとはちがい自由な芸術上の組織だからでもあろう。
執筆者:渡辺 淳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報