話千両(読み)はなしせんりょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「話千両」の意味・わかりやすい解説

話千両
はなしせんりょう

昔話。思いがけないことで幸せを得ることを主題にした運命譚(たん)の一つ。田舎(いなか)者が江戸見物に行く。話屋がある。珍しいので土産(みやげ)に三つの話を買う。帰る途中、宿屋に泊まる。宿の女房のせじがよすぎ、猫なで声である。「猫なで声に油断するな」という話を思い出し、別の部屋に寝る。もとの部屋では槍(やり)の難があり、殺されるところであった。翌日、大嵐(あらし)になる。石室(いしむろ)で休むが、「柱のない所に入るな」という話を思い出し、室を出ると崩れる。家に帰ると、女房が坊主と添い寝している。怒って殺そうとするが、「短気は損気」という話を思い出し、よくよく見ると、母親が頭を剃(そ)っている。男は、話は安いものだという。「話」とは諺(ことわざ)などの忠言のことで、「話千両」とは話を千両で買ったという類話による呼称である。忠言は三つが普通で、内容も大きな差異はない。沖縄県では糸満(いとまん)市の白銀(はくぎん)堂の由来譚として知られ、首里(しゅり)王府の『遺老説伝』(1745ころ)にも、「短気は損気」の話に相当する類話がある。落語の「指南書(しなんしょ)」もこの一例で、授かった一冊の指南書にある「旅は道連れ世は情け」「急がば回れ」「七たび尋ねて人を疑え」の三つの諺を信じて危難を逃れる。諺など忠言により幸せを得るという一群の昔話は、アジアからヨーロッパに広く分布している。忠言を金銭で購入する例も多い。忠言の内容も共通趣意のものが少なくない。「短気は損気」のように、夫婦関係にかかわる忠言が目だっている。古くから各地域の説話文学にも登場し、インドでは『パンチャタントラ』にある。説教僧などにより語り広められたものであろう。「鼠経(ねずみきょう)」もこの昔話の仲間に属する。

[小島瓔

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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