石で作った室を意味するが,おもに埋葬施設をさすときに用いる。その場合,原則的には,遺体を直接入れる容器を〈棺〉,棺を収めるもので,単次葬用に作られ,大きさも棺によって規定されるものを〈槨(かく)〉,そして,棺とは直接関係しない広い空間と通路をもち,複数の棺(遺体)を順次追葬(複次葬)することのできるものを〈室〉と呼びわけるべきであるが,3者を厳密に区別することは困難な場合が少なくない。したがって,これらの用語は混用されることが多く,石室は火葬墓の蔵骨器や経塚の経筒を収納する石組みなどを呼ぶのにも用いられる。
日本の古墳時代の埋葬施設をさす場合,石室は竪穴式と横穴式とに区別される。竪穴式石室は墓壙の中に平面長方形の壁体を築き,納棺後に上部を天井石で閉塞する構造をとる。1室に1体の埋葬が基本で,大きさは,ほとんどが棺によって規定されている。石槨と呼ぶべきものであるが,慣例として石室という。古墳時代を通じて作られたが,代表的なものは長大な割竹形木棺を収める前期の例で,長さ6~8m,幅約1m,高さ1~1.5mを測り,畿内を中心に分布する。下部に排水施設や棺台としての粘土床を設け,棺を安置した後,チャート,石英粗面岩,片岩などの板石を小石積みにして四壁を築き,奥行きのある控積みを施し,長辺の上部を漸次持ち送って,最後に天井石で閉塞,ときにはこれをさらに粘土で覆うのが本格的である。しかし,中期には塊石や河原石を用いる例が増えるとともに,粗製化し,長さも短くなる。石棺を入れる例では長さ3~6m,幅約2mを測る。後に石棺は直接土中に埋められた。中期後半以後の例には,同じく竪穴式石室が盛行した朝鮮南部の影響が認められるものがある。長さ2m前後,幅1m足らずの小型のものは後期に多く,新しい例では退化した横穴式石室との区別が困難なものもある。また,九州を中心に,箱式石棺との折衷型式をとるものが見られるが,その場合は棺を用いないことが考えられる。なお,弥生時代の終末には先駆的な形態のものが出現するが,小型,粗製で,古墳時代前期のものとは直ちに連続してはいない。
他方,横穴式石室は玄室と呼ぶ遺体を収める空間と,そこにいたる通路としての羨道(えんどう)/(せんどう)よりなる。羨道が玄室前面の中央に付くものを両袖式,左右に偏するものを片袖式,両者の区別のないものを無袖式という。玄室の床面は長方形,方形,胴張長方形,楕円形などを呈し,敷石や排水溝が備わる。壁は塊石,河原石,板石,切石などを積むが,左右壁,あるいは四壁の上部を内側にせり出させる持送り技法で築き,その上に重量のある天井石を置いて構造に安定性をもたせるものが多い。石室は墳丘と同時に並行して作られるのが普通である。葬法は同一室内に複数の遺体を合葬するのが基本で,通常3~4体,ときには10体を超える遺体を順次追葬する。入口の閉塞には板石や塊石を用い,再び開くことが可能となっている。棺は石棺,木棺,陶棺等を用いるが,九州などでは板石で室内を区切る石障(せきしよう),石屋形(いしやかた),屍床などと呼ばれる施設が発達し,その場合は棺を用いなかったらしい。また,玄室の前に小室を設け複室とする例もある。石室の形態は以上の諸要素が複雑にからみあって決定されるため,多様な展開をとげるが,その基本は棺(遺体)の配置方法にあったと考えられる。
横穴式石室という用語は,中国の塼室墓の影響を受けながら朝鮮,日本で発達した石室に対して用いられる。朝鮮では高句麗がいちはやくこの墓制を採用し,5世紀には百済,伽耶へ波及,新羅でも統一時代には盛んに作られた。日本では百済や伽耶の影響下,中期初頭には北九州で築造が開始され,中期後半には畿内に及び,後期には群集墳の盛行と相まって全国的な発展をとげた。おもに中期の北九州や伽耶にみられる,竪穴式石室状の石室の一短壁に横口状の短い羨道を設けた〈竪穴系横口式石室〉や,出雲を中心とする板石作りの〈石棺式石室〉,あるいは終末期の畿内の一部に分布する板石積みの〈塼槨式石室〉などは,いずれも横穴式石室の特色ある一類型である。また,玄室部が石槨となる終末期のものは〈横口式石槨〉と呼び分けられる。
なお,横穴式石室と類似する石室は,新石器時代以後,世界各地で作られた。なかでは西北ヨーロッパのパッセージ・グレーブ(羨道墓)やイタリア,エトルリアの石室,ギリシア,ミュケナイのトロスなどが名高いが,葬法は必ずしも同一でなく,時代差も大きい。
執筆者:和田 晴吾
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自然石または加工石材を用いて積み上げた墓室をいう。内部に棺や副葬品を納める構築物であるが、小形の例では直接遺骸(いがい)を納めるなどの場合もある。日本古墳時代の石室には大別して2種がある。一は棺を安置したのちに、その周囲の四壁に主として割石(わりいし)などを積み、最後に上部に天井石を架する竪穴(たてあな)式石室であり、他は周囲三壁および天井をつくり、埋葬後に入口となる一壁を閉じる横穴式石室である。竪穴式石室はおもに4世紀から5世紀にかけてつくられ、横穴式石室は5世紀に大陸から伝えられて、その後6世紀以降に盛んにつくられた。のちには巨大な自然石使用石室、切石(きりいし)積みの精緻(せいち)な石室もつくられるようになる。九州を中心とする地域の装飾古墳はこの横穴式石室にみられ、その形態を継ぐ横穴にも及んでいる。
[伊藤玄三]
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…また,崖や斜面にうがった横穴(よこあな)やそれに続く墓室(中国後漢代の崖墓(がいぼ),日本古墳時代の横穴),垂直に掘り下げてから水平方向に掘った横穴(南ロシア青銅器時代の地下式横穴墓,宮崎・鹿児島県の地下式横穴),地下の坑道の壁面にうがった横穴(ローマの初期キリスト教徒の墓所であるカタコンベ)に納めることもある。石,塼(せん),木などで構築した墓室内に棺を納めることも多い(石室,塼室墓)。墓室の中にあって棺を包みもつ構造を槨(かく)という。…
※「石室」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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