改訂新版 世界大百科事典 「語常住論」の意味・わかりやすい解説
語常住論 (ごじょうじゅうろん)
古代インドのミーマーンサー学派,ベーダーンタ学派,文法学派が主張した説。言葉は常住,ないし言葉と意味の結合関係は永遠不変であるとする。彼らによればベーダ聖典は神や人間の創り出したものではない。永遠の過去から存在するベーダ聖典が聖仙(リシṛṣi)たちの頭にひらめいた結果,この世に伝えられているのである。そして,世間で用いられる言葉は,すべてベーダ聖典の言葉をもとにしているのである。
さて,パタンジャリ(前250年ころ)をはじめとする文法学派たちは,言葉の本体としてスポータ(つぼみ)を想定し,これが音声によって,あたかもつぼみが開くように開顕され,それがわれわれに意味を伝達すると考えた。バルトリハリ(5世紀後半)はこのスポータを絶対者ブラフマンと同一視した。彼は言葉の本性を理解し,正しい用法を身につけることによって解脱を得ることができるという特異な主張を行った。一方,ミーマーンサー学派,ベーダーンタ学派は,言葉とはバルナ(音素)にほかならず,その音素の特定の配列が直ちに意味を伝えると考え,スポータという余分なものを想定する必要はまったくないと主張した。これに対して,バイシェーシカ学派やニヤーヤ学派は,言葉は音声にほかならず,発音されるやいなや消滅する,そして言葉と意味の結合関係は世間の慣習的約束ごと以外の何ものでもなく,変化するものであると,語無常論を主張した。
執筆者:宮元 啓一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報