パタンジャリ
ぱたんじゃり
Patañjali
(1)紀元前150年ころのインドの文法学者。生没年不詳。前400年ころ文法学派のパーニニはサンスクリット語の文法を極度に簡潔な文体で著した。これに対して同派のカートヤーヤナKātyāyana(前250ころ―前200ころ)が評釈を加え、さらにこれにパタンジャリが『マハーバーシュヤ』という大部の批判的な注釈を書いた。これは文法の規則を扱った書であるが、言語に関する哲学的考察を含み、言語の本質は永遠であり、発声によって顕現するという思想を初めて説いた。(2)インド六派哲学ヨーガ学派の開祖にして、その根本経典『ヨーガ・スートラ』(3~5世紀ころ)の著者。先の文法学者と同一人とする説もあるが、これには疑問がある。
[村上真完 2018年7月20日]
『金倉圓照著『印度中世精神史 上』(1949・岩波書店)』
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パタンジャリ
Patañjali
前2世紀ころのインドの文法学者。生没年不詳。《マハーバーシャMahābhāṣya(大注)》の著者。パーニニ(前5世紀)に始まる古典インドのサンスクリット文法学は,カーティヤーヤナにより補足的・是正的注解を加えられるという形で,言語的慣用の変化を反映しつつ発展してきた。パタンジャリはこのカーティヤーヤナの《バールティカ》を解明・批評し,詳細な注釈をほどこし,古典サンスクリット文法の細則を確立した。また《バールティカ》中のパーニニのスートラ自身に対しても批判的・補足的注解をなし,カーティヤーヤナの業績を継承・発展させた。この《大注》は学術的論議の形式をそのまま簡潔な散文にうつしたバーシャ体bhāṣyaで書かれた現存最古の文献でもある。また《大注》には言語に関する哲学的考察を行う部分もある。彼は〈語の本体はスポータと称する特殊な基体であり,それがわれわれの心の中に観念を起こさせる〉とし,語とその意味の関係は永遠不変であると主張した。バラモンの文法学者たちはこの語常住論によりベーダ聖典の常住永遠性を根拠づけ,その権威を確立しようと努めたのである。
執筆者:高橋 明
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パタンジャリ
Patañjali
サンスクリット語の文法家。 (1) カーティヤーヤナの『バールティカ』に対する反論とパーニニ文典の補修を目的とする文法書『マハーバーシャ (大注釈の意) 』 Mahābhāṣya (前2世紀) の著者の筆名。 (2) 『ヨーガ・スートラ』の著者の筆名。『ヨーガ・スートラ』4巻が成ったのは,前2世紀から5世紀にわたると推定されるので,この著者がいつの時代の人か,複数の著者が同じ筆名のもとに書いたのか,などなお未詳。
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「パタンジャリ」の意味・わかりやすい解説
パタンジャリ
前2世紀ころのインドのサンスクリット文法学者。パーニニとともに古典文法学の確立者で,《マハーバーシャ》(大注)の著者。
→関連項目ヨーガ学派
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世界大百科事典(旧版)内のパタンジャリの言及
【カーティヤーヤナ】より
…しかしそれは単なる祖述にとどまらず,言語的慣用の変化に即し,選択的に(パーニニの1/3だけあつかう),批判的に師主の規則を吟味,解明し,補足的に規則を改善し,まれにはこれの誤りを指摘している。この態度はパタンジャリにひきつがれ,彼により古典サンスクリット文法は完成されることとなる。[文法学派]【高橋 明】。…
【スポータ】より
…音声は無常であるが,ことばと意味の関係は固定的である。そこで,文法学派の[パタンジャリ](前2世紀)は,意味を伝達することばの本体としてスポータ(つぼみ)なるものを想定し,それが音声によって開顕されるとした。この説を受けて,[バルトリハリ](5世紀後半)は,スポータは常住不変であるとした。…
【文法学派】より
… パーニニを契機として文法学はベーダの補助学の域を脱し,独立の学問分野として発展した。《パーニニ・スートラ》は,前250年ころの[カーティヤーヤナ]の《評釈書(バールティカ)》ならびに前2世紀ころの[パタンジャリ]の《大注解書(マハーバーシャ)》によって補修,発展させられた。パタンジャリは,語の意味するところを句義(パダールタ)として実体,性質,運動に分類した。…
【ヨーガ学派】より
…サンスクリットでは開祖の名にちなみ,パータンジャラPātañjalaと呼ばれる。開祖はパタンジャリと伝えられ,この学派の根本経典《ヨーガ・スートラ》を作ったといわれている。この経典は,古くからさまざまな形態で存在していたヨーガを,仏教の影響のもとに,[サーンキヤ学派]の学説を借用して体系化したものである。…
※「パタンジャリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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