日本大百科全書(ニッポニカ) 「貝製品」の意味・わかりやすい解説
貝製品
かいせいひん
貝製の装身具や貝製の器具などをいう。美しい貝殻が古代人の装身具、愛玩(あいがん)品として目に留まるのはきわめて自然のことであり、現在でも貝殻は装身具をはじめ種々な用途に利用されている。一方、ホタテガイのような大きな二枚貝の殻は煮沸用具としても利用でき、縄文時代の貝塚から、黒く焼け煮沸用具に使用したと思われる貝殻の出土例もある。
長野県南佐久(みなみさく)郡北相木(きたあいき)村栃原岩陰(とちはらいわかげ)、愛媛県上浮穴(かみうけな)郡久万高原(くまこうげん)町上黒岩(かみくろいわ)岩陰では、縄文時代早期中葉の押型文(おしがたもん)土器の層からタカラガイ、イモガイ、ツノガイ製の垂飾品が多量に出土している。また茨城県北相馬(きたそうま)郡利根(とね)町花輪台(はなわだい)貝塚では、早期の花輪台Ⅰ式土器に伴ってイモガイ製の垂飾品が数点出土している。熊本県宇土(うと)市轟(とどろき)貝塚では、早期末の女性壮年人骨が2体出土し、そのうちの1体はアカガイ製の腕輪をし、他の1体は首に数十個のアマオブネとイモガイを連珠した首飾りを巻いたまま埋葬されていた。このようにみると、タカラガイ、イモガイ、ツノガイなどで製作した首飾りは早期中葉以降、もっとも早く装身具として流行をみたものと推察される。そして早期末以降アカガイ、ベンケイガイ、イタボガキ、ツタノハ製などの貝製腕輪が普遍化した。後期に入ると赤色塗料を塗って一段と美化したものも現れる。
イタボガキ、サルボウなどの貝殻に径4センチメートル内外の孔(あな)をうがったものは、つる状の小枝などに通して、これを振り鳴らし、魚類を入り江の奥に追い込んで捕獲する「おどし漁業」の漁具として使用されたものではないかとの説もある。また大形のハマグリ、カガミガイなどの縁が波状に破損したものがあるが、これは魚の鱗(うろこ)をはいだりする貝刃(かいじん)として使用されたものである。まれな出土例であるが、大形の二枚貝をスプーン状に製作したものが縄文時代後・晩期遺跡から数例出土している。貝殻に加工の跡はないが幅10センチメートルを超えるミルクイガイなど大形の二枚貝の内部にべんがらが厚く付着しているものがあり、塗料を溶く皿の代用品にしたと思われ、中期以降の遺跡からまれに出土する。弥生(やよい)時代の遺跡からも貝製腕輪のほかに装身具らしい精巧な貝製品が発見される。
[江坂輝彌]