日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツノガイ」の意味・わかりやすい解説
ツノガイ
つのがい / 角貝
tusk shell
tooth shell
広義には軟体動物門掘足綱に属する貝の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。掘足綱Scaphopodaの仲間は、殻が管状で前方に太く、後方に向かって細まり、背方へ弓形に反っていることが多く、獣の角(つの)を思わせるので、普通、ツノガイ類と総称されることが多い。殻の色は多くは白色であるが、緑青色や黄色などを帯びる種類がある。殻表は平滑または縦肋(ろく)があり、そのため殻の断面や殻口は円形のほか四角から八角または多角形で、歯車状になるものもある。殻頂には切れ込みを生じるグループがある。軟体は外套(がいとう)膜が体を左右から包み、腹側で合して管状となるが、前後の両端は開く。頭部は吻(ふん)状に突出しているが目や触角はなく、先端に口がある。また、吻から多数の頭糸という紐(ひも)状の器官を出す。頭糸の先端は多少太く、吸盤状で感覚をつかさどり、また頭糸の背面は溝状になっていて、そこに生えている繊毛の運動により海底質中の有機物を口に運ぶ。口には軟体動物門特有のそしゃく器官である歯舌がある。本綱の歯舌は腹足綱のそれほど複雑ではないが、四辺形の中歯、縁歯、側歯をもち、体に比べて大きく強い。足は先端のほうへとがって周囲が刀の鐔(つば)状になり、海底の底質に足を突き入れてから、この鐔を支点にして体全体を引き込む。えらを欠き、外套の腹側に繊毛を生じ水肺となる。心臓など循環系も単純で、心耳や血管はない。肛門(こうもん)は体の腹側に開く。雌雄異体。
この類は古生代デボン紀に出現し、すべて海産で、浅海から深海まですむ。砂泥中に体の前半を埋めて後端を出し、砂泥中の有孔虫や珪藻(けいそう)などを食べる。現生種は2科(ゾウゲツノガイ科、クチキレツノガイ科)約500種があり、潮間帯下から深海底に至るまで分布して、いずれも砂底や泥底にすむ。日本には約50種を産する。貝殻は貝細工に用いるが、アメリカ・インディアンは貨幣の材料に用いた。
種のツノガイAntalis weinkauffiは、ゾウゲツノガイ科に属し、房総半島から九州まで分布し、水深30~100メートルの砂泥底にすむ。殻長100ミリメートル、殻口径8ミリメートルに達し、殻は背方へ弓形に湾曲し、黄橙(こうとう)色の個体と白色の個体がある。殻頂部には9本の縦肋があり、その間に細い肋もあるが、殻口に向かって弱くなり、ついには消失する。
そのほか、日本産の大形種にはマルツノガイFissidentalium vernedeiがあり、殻長140ミリメートルに及ぶ。ヤカドツノガイParadentalium octangulatumは殻長60ミリメートルぐらいで、わが国ではもっとも普通種、各地の水深10メートルぐらいの砂泥底にすむ。名前は「八角(やかど)」であるが、6~9角形の変異がある。ゾウゲツノガイDentalium elephantinumはヤカドツノガイを大形にしたような種で、殻長100ミリメートルに及ぶが、わが国には産さずフィリピン以南に分布する。ニシキツノガイF. formosanumは殻長80ミリメートルで太く、丸みのある縦肋があるほか、暗紫紅色と白色ないし黄緑色の色帯がある。紀伊半島以南に分布する。相模(さがみ)湾以南のやや深い所にすむムチツノガイA. rhabdotumは殻長55ミリメートル、曲がり方が弱く、15本ぐらいの縦肋がある。クチキレツノガイSiphonodentalium isaotakiiは内湾の水深10メートルぐらいの泥底にすみ、殻高10ミリメートル、殻頂には3対の切れ込みがある。
[奥谷喬司]