日本大百科全書(ニッポニカ) 「タカラガイ」の意味・わかりやすい解説
タカラガイ
たからがい / 宝貝
cowry
軟体動物門腹足綱タカラガイ科に属する巻き貝の総称。この科Cypraeidaeの仲間は世界に約200種を産し、そのうち日本には約75種が知られている。おもに熱帯地方の浅海に多く、300メートルぐらいの陸棚帯にすむ種もある。幼貝では殻が薄く、螺塔(らとう)があり、殻口も広く、殻口両側の刻みもない。成長するにつれて殻口の外唇は内方へ巻き込んで殻口を狭め、内外唇に刻みができる。また、殻を包む外套(がいとう)膜は殻表に幾重にも滑層を分泌して、殻は年齢とともに厚くなり、幼貝とは異なった模様を呈し、表面の光沢が強い。螺塔は滑層の下に隠れて見えなくなる。
タカラガイの貝殻は古来呪術(じゅじゅつ)的な価値と経済的価値を備え、アフリカやインドシナ半島では近年まで貨幣としても用いられた。コンゴ民主共和国(旧、ザイール)のキンシャサ奥地のクバ人の例では、1850年ごろはニワトリ1羽がタカラガイ10個、女の奴隷は1000個と交換された。しかし100年後には、ポルトガル人が大量にタカラガイを持ち込んで、流通量が増したため、貝の価値が下落してニワトリ1羽が400個に相当したといわれる。日本ではハチジョウダカラガイなどはコヤスガイ(子安貝)といわれ、安産の守りとする地方がある。また、ナンヨウダカラガイは、フィジー諸島では首長(しゅちょう)だけが飾りに用いる。シンセイダカラガイ、オウサマダカラガイなどは世界的な珍種で、テラマチダカラガイ、ニッポンダカラガイ、オトメダカラガイ、クロユリダカラガイは日本での珍種であり、高価で売買される。
[奥谷喬司]
民俗
『竹取物語』で、かぐや姫が求婚者の1人に、ツバメの腹にもつこの貝を所望するのはよく知られている。子安貝ともいうので、安産や育児に伴う呪物(じゅぶつ)とされ、また蔵骨器(ぞうこつき)に入っていた例も鹿児島県伊佐(いさ)市など数例あることから、生命力の再生を願う呪具としての観念もあったらしい。柳田国男(やなぎたくにお)は『海上の道』(1961)でこの貝の重要性を指摘しているが、アジア、アフリカ、アメリカの先住民族は先史時代からこの貝殻を貝貨として用い、ニューギニアのモニ人は最近まで貨幣として使用していたという。
[矢野憲一]