改訂新版 世界大百科事典 「資産合算制度」の意味・わかりやすい解説
資産合算制度 (しさんがっさんせいど)
所得税は個人に課税することを原則とするが,人はおもに家族とともに消費生活をしているから,担税力に照らして〈世帯〉単位で課税単位を測定すべきかどうかが問われる。1988年12月改正以前の所得税法が資産合算(96~101条)の特例を定めていたのも,課税単位としての世帯課税の一例である。日本の所得税はその導入以来,伝統的な家族制度に基づいて同居家族の所得を合算し,累進税率を適用してきたが,第2次大戦後,〈家〉制度が廃止され,税法上も〈戸主〉〈家族〉等の語は抹消され,これに代わって〈同居親族〉の所得について合算する制度が設けられた。現行の資産所得合算課税制度が導入されたのは,1957年の改正法である。同一生計に属する一定範囲の親族に資産所得(利子所得,配当所得,不動産所得)があるときは,所得の最も大きな〈主たる所得者〉の所得に合算対象世帯員の資産所得を合算して税額計算をする。資産所得につき課税単位を一定の世帯にまで拡充して累進税率を適用して算出された税額の全部が,主たる所得者の要納税額となるのではなく,各人の合算所得額に応じて上記の算出税額を按分し,各按分税額が各人の要納税額となる。この制度の趣旨については,〈殊に世帯員の中に資産所得を有する者がいる場合と然らざる場合とで当該世帯に属する個人の担税力に相違があること,又資産所得はその名義を世帯の者に分散することによって税負担の軽減をはかることが容易であり,……右制度は租税回避行為の防止をその目的の一とした〉(1976年の神戸地裁判決)ものといえる。資産所得に限り別異に扱うことの不合理性,合算対象世帯員の固有財産から生ずる資産所得に対する合算課税は実質課税と個人課税原則の放棄となることを理由に,憲法13,14,29,30,84条に違反するかどうかが問われたが,裁判例はいずれも合憲判断を下した。判例は,課税単位につき憲法がなんら触れていないことをその理由とした。しかし,資産合算制度は税額の計算が複雑であるという理由から,88年改正で廃止された。
執筆者:村井 正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報