内科学 第10版 「赤血球破砕症候群」の解説
赤血球破砕症候群(後天性溶血性貧血)
概念
赤血球は柔軟性に富み,その直径よりも狭い毛細血管と心臓・大血管との間を繰り返し循環しながら働く.この循環中に赤血球以外の要因により血管内で物理的に破砕される病態を赤血球破砕症候群(RFS)とよび,さまざまな形に破砕された断片化赤血球の出現と血管内溶血所見を特徴とし,ときに貧血を呈する.
病態・分類
心臓・大血管または小血管・微小血管の異常に起因する2群に大別される.前者はRFSの約7%を占め,弁膜症や人工弁など心臓弁に原因があるものや大動脈狭窄症などを含む.後者はRFSの大半(約9割)を占め,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP),溶血性尿毒症症候群(hemolytic-uremic syndorome:HUS),播種性血管内凝固症候群(DIC),血管腫,行軍ヘモグロビン尿症,造血幹細胞移植に伴う血栓性微小血管障害,妊娠関連のHELLP症候群を含む.TTPは全身性血栓形成による血小板減少と溶血,中枢神経や腎の障害,発熱を特徴とする.病因は不明であるがvon Willebrand因子の分解酵素(ADAMTS13)活性低下が指摘されている.HUSはTTPと共通性が高い.TTPに比べるとHUSは小児(5歳未満)に多く,大腸菌(特にO157)などの感染症が先行することがあり,腹痛や下痢などの消化器症状や腎障害が目立ち,中枢神経症状は少なく,ADAMTS13活性低下もない.行軍ヘモグロビン尿症ではマラソンや剣道などに伴い,足底面血管に強い衝撃が加わり赤血球が傷害される.運動を中止すると溶血が鎮まり,貧血の発生はまれである.RFSでは共通して内皮など血管内面の柔軟性や滑らかさが失われ,血管内面と接触しながら全身循環する赤血球が傷害を受ける.
診断
断片化赤血球(ヘルメット状,三日月形など)の出現(図14-9-15参照),溶血所見(黄疸,赤芽球造血亢進,網赤血球増加,間接ビリルビン増加,LDH増加,ハプトグロビン低下),血管内溶血所見(血中遊離ヘモグロビン,ヘモグロビン尿,ヘモジデリン尿),貧血,基礎疾患がみられる.血管内溶血を呈する免疫性溶血性貧血(IHA)や発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)との鑑別は,免疫の関与がない(Coombs試験陰性,補体正常など),赤血球は正常(構造や補体感受性に異常がない)などによりRFS診断は可能である.基礎疾患の特定には病歴や固有の臨床所見を参照する.
治療・予後
基礎疾患対策が重要である.血管内溶血による腎障害や貧血に対してはハプトグロビン輸注,輸液と利尿,輸血などを行う.一般的に,血小板輸血は血栓形成を助長し危険であり,また血管内溶血にステロイドや脾摘は無効である.TTPには血漿交換が有効であり,HUSには腎の保護が重要である.免疫が関与する病態にはリツキシマブが効く場合がある.行軍ヘモグロビン尿症では運動を中止するか,足底への衝撃を和らげる靴底の厚い履物を利用する.予後は基礎疾患に依存する.[中熊秀喜]
■文献
Jeng MR, Glader B: Acquired nonimmune hemolytic disorders. In: Wintrobe’s Clinical Hematology, 11th ed, vol 1 (Greer JP, Foerster J, et al eds), pp1223-1246, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2004.谷 憲三朗:物理的溶血性貧血. 三輪血液病学,第3版(浅野茂隆,池田康夫,他監修),pp1228-1233,文光堂,東京,2006.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報