六訂版 家庭医学大全科「溶血性貧血」の解説
溶血性貧血
ようけつせいひんけつ
Hemolytic anemia
(血液・造血器の病気)
どんな病気か
ヒトの赤血球には約120日の寿命があります。この寿命が異常に短縮した状態を、溶血と呼びます。赤血球の寿命が短くなっても、ヒトの
溶血性貧血は、先天性のものと後天性のものとに分けられます。先天性では、赤血球そのものの異常が溶血の原因ですが、後天性の溶血性貧血は、発作性夜間血色素尿症(ほっさせいやかんけっしきそにょうしょう)などの一部を除いて、赤血球に対する抗体や、血管壁の異常などの赤血球以外の異常によって起こります。
表3は溶血性貧血の分類を示しています。先天性では遺伝性球状赤血球症が、後天性では
原因は何か
最も頻度の高い自己免疫性溶血性貧血では、赤血球を壊す自己抗体が体のなかにつくられてしまうことが原因です。ウイルス感染や、薬剤の使用に引き続いて起こることもありますが、ほとんどの例で誘因は不明です。全身性エリテマトーデスのような
また、血管壁の病的な変化や、外部からの物理的な力によって赤血球が壊されて起こるタイプの溶血性貧血(
先天性の溶血性貧血では、遺伝子の異常のために赤血球の膜をつくっている蛋白や酵素に異常があるため、赤血球が壊れやすくなっています。
症状の現れ方
溶血性貧血では、
検査と診断
血液の検査が最も重要です。これによって、貧血とともに、間接ビリルビンや乳酸脱水素酵素(LDH)の上昇が示されれば、溶血が強く疑われます。
軽度の溶血を検出する最も鋭敏な検査所見は、血清ハプトグロビンの低下と網赤血球の増加です。赤血球に対する自己抗体を検出する検査がクームス試験です。これが陽性であれば自己免疫性溶血性貧血と診断できます。前述した赤血球破砕症候群が疑われる場合に最も重要な検査は、赤血球の形態の観察です。遺伝性溶血性貧血を診断するためには、遺伝子や蛋白の異常を生化学的に証明する必要があります。
治療の方法
自己免疫性溶血性貧血では、副腎皮質ステロイド薬(プレドニン)が第一選択薬です。これによって約9割の患者さんが改善します。これが無効の場合には、シクロホスファミド(エンドキサン)やアザチオプリン(イムラン)などの免疫抑制薬が使われます。最近では、抗体をつくっているBリンパ球に対するモノクローナル抗体製剤(リツキサン)が難治性の自己免疫性溶血性貧血に有効であることが示されています。
遺伝性球状赤血球症やピルビン酸キナーゼ欠乏症などの遺伝性溶血性貧血では、脾臓を摘出することによって貧血が改善することがあります。
病気に気づいたらどうする
家系内に溶血性貧血の患者さんがいる場合には、その患者さんの治療方針に準じます。家系内に同様の症状の患者さんがいない場合には、血液内科を受診して、溶血の原因をまず明らかにする必要があります。慢性溶血性貧血では、パルボウイルスB19感染による急速な貧血の進行と胆石に注意が必要です。
中尾 眞二
溶血性貧血
ようけつせいひんけつ
Haemolytic anaemia
(子どもの病気)
どんな病気か
赤血球が何らかの原因で破壊され(溶血)、本来の赤血球の寿命よりも短くなることによって、貧血と
大きく先天性と後天性に分けられます。先天性の代表として遺伝性球状赤血球症を、後天性の代表として
症状、検査、診断のあらましは、厚生省(当時)研究班の診断基準(表12)が参考になります。
細谷 亮太
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報